今月もまずは前半4ホールを振り返りながらのトークセッションをお贈りします。
武井 今回は練習場での調子もよくて、上々のスタートでした。この企画も3戦目ですが、1ホール目で初のリードを奪いましたから。
林 練習場で見たときから、思っていた以上にうまいと思ったんですが、1ホール目でバーディを獲られ「あれ、ちょっとやばいかな?」という感じのスタートになりましたね。
武井 最近、不調だった得意のドライバーが今日は最初から当たりました。
林 不調だったんですか?まったくそうは見えませんね。わたしの50ヤード以上は前に飛んでいましたし。
武井 たまにチョロとか出ちゃうんですよ。それが出ると止まらなくなる。ボクのクセが原因みたいなところもあるのですが、日ごろからボールを打っていればその防ぎ方もわかる。でも、打ってないからそのクセをコースで修正できない。いまのボクの最大の敵は、スケジュールです!(笑)
林 やっぱりお忙しいんですか?
武井 はい。ありがたいことに、この企画がはじまってからますます忙しくてやりたくてもやれないのが現状です。
林 わたしは武井さんほど忙しくはありませんが、1歳の子どもがいるので練習もトレーニングも、やりたくてもやれない日々が続いています。
武井 それでもバカでかいミスをしませんよね。トッププロでも、結構やっちゃうときはやっちゃうときがあるじゃないですか。バチーンとやって、あぁぁぁ!みたいな。でも林プロは、どのクラブでも上手にボールに当てるし、「あっちにミスしてくれたら、このホール獲れるかも?」と思っても、そういうところには絶対に打たないマネジメントができていますよね。あまりショットには悩まないタイプに見えますが。
林 もともとはチーピンもちだったんですが、飛ばなくなったぶん、曲がらなくはなりましたね。出産してから30ヤードくらい落ちた飛距離がなかなか戻りません…。でも今日は、最近では一番曲がっていました。普段のラウンドではあまりラフにいかないのに、正直、試合より緊張しました。
武井 ほとんどフェアウェイ?はぁー、うらやましいなぁ。
林 スイングに悩まないというより、悩まなくなったんです。出産で1年くらいゴルフをまったくやらなくなったら、新しいことをすごく素直に受け入れられるようになりました。
武井 凝り固まっていたものがなくなった?
林 はい。復帰したらいろんなアドバイスがカラダにすんなり入ってくるようになって、スイングがすごくシンプルになった気がします。それで大きなミスはしなくなったのかもしれません。
武井 お子さんができて、悪いクセがなくなったってのはいい話だね。お子さんのおかげで、新しいゴルフが生まれたみたいなものだね。
林 たしかに結婚や子どもが力になってきました。わたしはプロテストに2回落ちている最中に縁あって結婚したんですが、その結婚がプロテスト合格の原動力になりました。「さあ、これからプロとしてガンバるぞ!」と思った翌年に子どもができて、1年間はゴルフができなくなるけど、授かりものだしこの子を産んでからまたガンバるぞと思ってやってきました。でも、そんなにあまいものではなかったですね。それは妹の旦那さんが気づかせてくれました。
武井 格闘家の石井(慧)くんが?
林 はい。妹が結婚するとき、石井くんの実家にお祝いのメッセージをもらいに行ったんですよ。そのときに賞状やメダルとかがたくさんある部屋を見たら、カベに「3倍努力」って書いてあったんです。それを見てすぐに、いっさいクラブを触らなくなりましたし、部屋のパターマットもしまいました。お医者さんにはお腹のなかに子どもがいても、練習もトレーニングもやっていいと許可はもらっていましたが、世界のトップにいる選手が人の3倍も努力しないといけないなら、半端な状態でやっても絶対に無理だと思ったんです。
武井 なるほど。で、いつから再開したんですか?
林 またやりたいと思ったのは、出産の3カ月くらい前ですね。テレビで日本女子オープンを見たんですよ。それまで11、12年と2年連続で出場していた試合で「わたし、去年までここにいたんだ」と思ったら、またやりたい気持ちがフツフツとわいてきて、産んだらすぐに復帰しようと決めました。出産の1カ月後には練習もトレーニングもはじめたのですが、想像以上に体力も筋力も落ちちゃって。
武井 いまでも出産前のカラダやプレーが戻らない?
林 そうなんですよ。これまではプロテストに落ちても人よりいいスコアが出せなくても、努力すればいつかはできると思ってガンバれたし、わたしみたいな体格に恵まれていない人が、子どもを産んで育てていてもプロとしてやっていけるというのを実証しようと思ってやってきたんですが、現実的なことを考えるとマイナスなことばかり考えるようになって、最近はモチベーションが上がらないんです。そこで、せっかくの機会なので武井さんに聞いてみたいのですがいいですか?
武井 いいアドバイスができるかわかりませんが、ボクなんかでよければなんでも聞いてください。
林 気持ちの面でも体力の面でも、もう1度しっかりゴルフができるようになるにはどうしたらいいですかね?武井さん自身の考えも聞いてみたいですし、お知り合いにも出産してから復帰してまた第一線でやっている女性アスリートの方がいらっしゃるんじゃないかと思いまして。
武井 んーとね。ボクは当然、出産もしたことないし、子どももいないんだけど、林プロの悩みってそんなにむずかしいことじゃなくて、簡単にいってしまうとスポーツの順位とかレベルっていうのは、その人がそれに向けて自分を使った総量で決まるものだと思います。とくにスポーツはすごく単純で、足りていればいい成績が出たり勝ったりするし、足りていなければ負ける。たったそれだけのことです。トップアスリートは、石井くんの「3倍努力」がまさにそう。ボクはいろいろな選手を見てきたけど、才能だけでトップに立った人はひとりもいない。日本で一番の人は日本で一番学んだり鍛えたり、それに対して思いを寄せたりする時間を過ごしている人で、2番目に時間を費やした人が2番になる。そこには偶然はなにひとつないと思っているし、本当にそう。ボクも陸上の十種競技で日本一になったときは、ボクの才能が高かったわけではなく、絶対に日本一になれると思えるほど総量を上げた自信がありました。
林 では、時間がとれないわたしは、総量が圧倒的に足りてませんね…。
武井 そうかもしれないけど、林プロの場合、「いまが足りていない」と「しょうがない」ですね。ボクのいまのゴルフもまさにそうで、思うような球が打てないことはもちろん悔しいんですが、総量が足りていると思えるくらい自分をゴルフに向かって使っていないんだから、本当にしょうがないんです。
林 やっぱり、しょうがないんでしょうか?
武井 たぶん、林プロが思っているのとボクが思っている「しょうがない」は違うかな?ボクのしょうがないは、あきらめではないんですよ。いま足りていないことだけが理由のしょうがないだから、ダメだと思っていませんし、ろくに練習もしていないわりにはいい球を打つときもあるでしょ。それこそゴルフばっかりやっていたむかしでも、絶対に打てなかった球が打てるときがあるので、ピカピカに光る可能性すら感じています。こういうときに「これまでのすべてがムダではなかったな」と確信しますね。林プロのいまもむかしも、ムダはひとつもなかったと思いますよ。
林 わたしが、ゴルフができずに過ごしている時間もムダではないんですか?
武井 自分が過ごす時間に、ムダなことなんてひとつもないんですよ。子育てしている林プロも、出産前にプロテストに受かるまでにかけた林プロのゴルフに対しての総量もムダではありません。ボク自身もそうで、この連載みたいにゴルフがお仕事になっているのは、ゴルフがうまいからではなく、過去に使ったゴルフの総量やほかのスポーツで培ったカラダを操る能力や筋力。いまメインにやっているタレント活動で、世間の人に見て楽しんでもらいたいと思うエンターテインメント性。これらのすべてが合わさることでやらせてもらっている。そして、こんなにも素敵な女子プロの方々と対決させてもらえるのは、ほかでは得られない大きなプラスに必ずなる特別なものですが、これにかぎったことではなく、すべてがなにかに向かって自分を伸ばしてくれる有意義な時間でしかないのですよ。
林 すごく元気づけられました。ただ、じつはわたし、家族やごく親しい人にしかまだいっていなのですが、また別の悩みがあるんですよ…。
武井 えっ!まだあるの?この際なんでも打ち明けてくださいよ!
(次号に続く)
林綾香 はやし・あやか
1987年3月22日生まれ。身長148cmはツアー最小。一児の母とプロ活動を両立させるママさんゴルファー。妹は歌手の林明日香。義弟は格闘家の石井慧。実弟もプロゴルファー。大阪府出身。フリー。
武井壮 たけい・そう
1973年生まれ。百獣の王を目指す人気タレント。14年も卓越した身体能力と軽快なトークで、あらゆるメディアに出演。ゴルフの腕前はプロ級で、米ゴルフ留学中に取得したUSGAハンデは1.3。現在、LINEスタンプ(40種類)をLINE ストア(line.me/S/sticker/1037438)にて好評発売中。
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