[編集部] 武井さんって、ゴルフの上達法を語るときに「経験」って言葉をよく口にしますよね。
武井 ゴルフは経験がとくに大事なスポーツですから。でも、ゴルフにかぎったことでもありませんよ。百獣の王も、経験がつくり上げたといっても過言ではない。
――百獣の王と経験に、どんな関係が?
武井 あれは28歳のときです。ボクはオレゴンにいたのですが。
――2度目のアメリカゴルフ留学のころですね。
武井 はい。そのころのある日、急に目の前にシカが現れたんです。ぐわーっと大きくて立派な角をもった牡ジカです。ボクをジーっと見ているだけなんですが、殺されると思いました。
――武井さんにとってシカなんてチョロいもんじゃないですか。
武井 いや、当時のボクはいまより全然弱っちくて、正面からドーンと来られたらひとたまりもないだろうし、逃げたら背中を突かれてしまうと思って、戦うことはもちろん逃げることもできませんでした。
――そのピンチをどう切り抜けたんですか?
武井 ボクのあまりのビビリように「コイツは危険性がないな」と判断したのか、なにもせずにシカは去っていきました。
――武井さんが動物にビビるなんて、いまではとても想像できませんが、それと経験がどんな関係があるんですか?
武井 それでボクは、動物と戦うシミュレーションをするようになったんです。
――2万戦を超える動物との死闘は、そのシカがきっかけなんですか!?
武井 ええ。頭のなかで戦って経験しておけば、またあのときと同じ状況になっても瞬時に対応できる。そのための備えなんです。
――なるほど。いまの武井さんなら、どんな動物が襲ってきても、もう十分な経験を積んでいるので楽勝でしょうね。
武井 ゴルフもまったく同じですよ。とくにラウンド中は、いろんな動物に遭遇するようなものです。
――たしかに、シカやサル、イノシシなんかが出てくるゴルフ場はありますが、そう頻繁に出会わないし、戦わないし。あっ、昨年ボクはネコとタヌキにも会いましたが……。
武井 そういうことではなく状況のことです。ラウンド中は、足場もライも目標方向の状況も完全に同じというのは2度とない。それはいろんな動物が出てきて、その都度戦う相手が変わるようなものだということです。
――状況が変わるのは、戦う相手が変わるのと同じということですか?
武井 そのとおり。全部違うんだから同じ戦い方をしていたら勝てませんよね。
――そういう違った相手に勝ち続ける秘けつを、武井さんはもちろんご存知で?
武井 その相手の特徴を見抜くことですね。動物ならパワーがある、俊敏性が高いなどですが、ゴルフの場合は抵抗が強くて飛ばないとか、バランスがとりにくくて曲がるとかですね。
――その特徴に合わせた打ち方をすればいいんですね?
武井 いいえ。打ち方は変えないほうがいい。完全に同じという状況はないのですから、都度それぞれに合わせてスイングを変えていたら、何千とおりもの打ち方が必要になってしまいます。
――それは大変ですし、スイングが複雑になってしまいますね。
武井 ですから練習場では、平らないい状況でスイングしたときに正確にヒットして真っすぐ飛ばせるひとつのスイングを、徹底的に身につけておくことが大事になります。そして、コースではそのスイングで出た結果をよく見て覚えて経験にする。
――ミスしてもムダではないし、ムダにしないことが大切なんですね。
武井 そうです! どんな当たり方をしてどんな球筋が出たのか、それを経験として蓄積しておくことが、さまざまな状況への対応力となるのです。アンラッキーな状況に出会っても、落ち込む必要はありません。それはまた新しい経験を積むチャンス! 「またかよ……」と思うような悪い状況に再会したときは、前に得た経験を試したり、経験をさらに積み重ねるチャンスです!
――ラウンドって、上達のチャンスの連続なんですね。
武井 単に経験するだけでなく、ラウンドで得たものをフルに生かせばうまくなる! それを証明している人たちがいるじゃないですか。
――だれのことですか?
武井 プロゴルファーですよ!
次号予告
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