昨年、メジャーの全米プロ選手権を含め5勝したデイ。最後に勝ったBMW選手権では、試打したばかりのドライバーを実戦で即使うという勢いのよさ。その英断で、デイのドライバーは大きく取りざたされることに。
取材・文/舩越園子
米ツアーが西海岸シリーズに突入した今年1月。サンディエゴで開かれたファーマーズ・インシュアランス・オープン会場のトーリーパインズのコース内をスロースピードで動いていく派手な車が目についた。
運転席のお兄ちゃんいわく、「これはコース内の6か所の間を行き来するサービスカーだよ。キミも乗るかい?」
いやいや、私は結構ですと遠慮しながら車を眺め回すと、両サイドには「M2」の文字。車の後方には「ジェイソン・デイのバッグを当てよう!」のキャンペーン告知。そう、この車はギャラリーサービスを兼ねたテーラーメイドの宣伝カーだった。
昨年9月、ジェイソン・デイがプレーオフシリーズ第3戦のBMW選手権で、できたてほやほやのM1ドライバーをいきなり実戦で初使用。初日は「59」に迫りながら、サスペンデッド明けの翌日に「61」でホールアウト。残る3ラウンドも好プレーを続け、7月のカナディアンオープンからの6試合で4勝目を飾り、世界一へと上り詰めていった彼の快進撃は衝撃的だった。
米ツアーの選手が契約先の新製品を秘かに試合で試すこと自体は、よくある話。とりわけ翌春の小売り開始に備え、秋ごろの大会で試打をするのは、ギアの世界の通例だ。
フロントとバックのトラック・ウエイト・システムをチューニングすることで曲がり幅とバックスピン量を自分好みに調整できるといううたい文句のこのM1も、通例通り、秋風が吹き始めたBMW選手権の週から契約選手たちの実戦使用が可能になった。
デイはプロアマの日に試して好感触を実感。そのとき彼はカナディアン、全米プロ、バークレイズで続けざまの勝利を挙げ、BMW選手権とツアー選手権の結果次第では、フェデックスカップ総合優勝や世界ナンバー1も可能という立ち位置にあった。
そんな大事な時期のビッグな大会でいきなり新製品のドライバーを投入するのはリスクが高いと考えるのが、これまた通例。だが、デイはあえてハイリスクに賭け、その結果が「快スコア」「快勝」「快進撃」という文字通りのハイリターンとなったため、M1はジェイソン・デイを飛躍させたドライバーとして一気に注目を集めた。
実を言えば、このBMW選手権の週にM1を実戦初使用した選手はデイを含めて16人もいた。だが、他の15人はまさに「秘かに」「人知れず」試打したにすぎず、デイの初使用だけがクローズアップされる形になった。もちろん、デイには結果が伴ったからだ。
人々の興味はM1ドライバーがもたらす性能に集まった。なぜなら、デイがそれを嬉々とした表情で強調したからだ。「あんなショットは依然のR15では打てなかった」「ドライバーでよりアグレッシブに打てたからこそ、より短いクラブでピンを狙っていけた」
大会前までのデイの平均飛距離は314・6Yだったが、大会後は334.6Y。いきなり20Yアップは驚異的な数字だった。他選手たちも続々とM1に持ち替え、短期間のうちにM1は米ツアーにおけるブランド別使用率ナンバー1の座を獲得。そして、M1の弟分として一般向けのM2もデビュー。そのためのプロモーションとして米ツアー会場にお目見えしたのが、写真のギャラリーサービスを兼ねた宣伝カーだった。
M1ドライバーそのものの性能の高さはデイの実績、他の契約選手の実績が物語るとして、それ以外に、いやそれ以上に「すごいなあ」と感じさせられるのは「ジェイソン・デイのドライバー」という概念が一種のトレンドにまで発展していることだ。
テーラーメイドがさらなるプロモーションのために用意した「FAMILY」を「FAM1LY」(ローマ字Iが数字の1になっている)と文字ったキャップは、今年の西海岸シリーズの会場内で、どれだけ目に付いたことか。ギャラリーあるいはTV中継のクルーたちまでもがそのキャップを被り、コースを練り歩いた。一番の驚きは、その文字の意味やギャラリーサービスの車に付された宣伝文句の意味を多くの人々がすでに知っていたこと。短期間に、そこまで浸透していたところに、デイがもたらした影響の大きさが見て取れる。
その様子は、さながら黄金時代のタイガー・ウッズに憧れてナイキのスウッシュマークの付いたウエアやキャップを身に付けていたギャラリーたちと、よく似ていた。プーマのマークが入ったオレンジ色に身を包むリッキー・ファウラーもどきの子供たちに、そっくりだった。
実力と魅力を兼ね備えた選手が、その武器、そのファッションで人々を1つの方向へ向けていく。アピールし、結果を出し、大きな影響を及ぼしていく。「ジェイソン・デイのドライバー」は、彼の飛距離をアップし、彼のゴルフの大いなる助けになっていること以上に、デイをそんなトレンドリーダーへ押し上げたことに大きな意義があると私は思う。

▲トーリーパインズGC内を走っていた、テーラーメイドのサービスカー

▲BMW選手権の優勝カップ。新ドライバーで「してやったり」の笑顔
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