世界ランク1位の座が定着してきたジェイソン・デイ。そんな彼がタイガー・ウッズからアドバイスを受けているというニュースが流れた。デイはどんな言葉をタイガーから授かったのか?在米ゴルフジャーナリスト・舩越園子がレポートする。
写真=平岡純
怒涛の年間5勝をマーク
思えば、去年の夏の途中ぐらいまで、ジェイソン・デイは、どうもビッグになりきれない悲劇の主人公のような存在だった。
マスターズでは惜敗を繰り返し、昨年の全米オープンでは優勝争いを目前にして持病のめまいを発症。コース上で崩れ落ちるように倒れ、プレー続行が危ぶまれるほどの事態に陥って惜敗に終わった。続く全英オープンでも優勝争いには絡んだが、72ホール目のバーディパットはわずかにカップに届かず、思わずあふれ出したくやし涙を止めることができなかった。
しかし、8月の全米プロでとうとうメジャーチャンプに輝くと、ジョーダン・スピースと並ぶ年間5勝をマークして、ついに世界ナンバー1へ上り詰めた。
今季はアーノルド・パーマー招待とマッチプレー選手権で2週連続優勝を飾り、さらには「第5のメジャー」プレーヤーズ選手権を制し、米ツアー通算10勝目をマーク。世界ランキング2位のスピース以下を引き離し、王座を揺るぎないものとした。
ウッズからデイへ送った助言
ほんの1年前までは、どこか報われないイメージだったデイが、メジャー初勝利を契機にして世界ナンバー1へ。そして今、その王座を一層強固にしようとしている。
そんなデイを温かく見守り、励まし続けているのは、かつての世界ナンバー1、タイガー・ウッズである。
デイとウッズは昨夏ごろから携帯のテキストメッセージやメールで頻繁にやり取りをするようになり、ときには電話で直接話したりしているという。
「僕は幼いころからタイガーにあこがれ、タイガーを目指して腕を磨いてきた。そんなタイガーと今では親友のように親しくなれて、ゴルフ界を独壇場にしてきた彼の頭脳からいろんなことを学べるなんて、本当に信じられない想いだ」
感慨ひとしおで喜びを露わにするデイに対して、ウッズが送ったアドバイスは多々ある。世界ランキング1位の座を長く保つために必要なことは、いうまでもなく、できるかぎり多く勝つこと。そして、勝つためには、目の前にある優勝のチャンスを逃さずモノにすること。それが何より大事なのだとウッズはデイにいったそうだ。
なるほど。これまでウッズが3日目を終えて首位に立っていたのは45回。そのうち43回優勝し、チャンスをモノにしてきた。
「54ホールのリードを必ず72ホールのリードへつなげ、勝利する」
それこそが長きに渡って王座に君臨するための絶対条件なのだと、ウッズは強調した。
「最終日を首位で迎えたタイガーが勝てなかったのは、たった1~2回しかない。それはすごいことだ!」
そういって目を輝かせたデイは、自分もそうなるべく、ウッズからもらったアドバイスを忠実に実践しようとしている。
「自分の世界に居続けること。目の前のショットのことだけを考えること。(最終日は)上がり3ホールのみならず18ホールのすべてが大切だと思って挑むこと。タイガーからのアドバイスは、やっぱり重みが違う。とても役に立つし、ためになる」
2人の友情を固めるもの
黄金時代のウッズがそうであったように、世界一の王座こそが何よりのモチベーションになるとデイは繰り返す。
「世界ナンバー1に勝るモチベーションはない。2位以下を引き離し、差を広げること以上のモチベーションはない。一生懸命に鍛錬すれば、ハードワークは必ず報われる。実際、そうやって僕は報われてきた。だから、これからも練習や努力を続け、もっともっと、できるかぎりたくさん優勝したい」
デイの意気は揚がるばかりだが、ときにウッズは自らの実体験に基づいて、デイの気持ちを引き締めさせるアドバイスも送っている。
「家族みんなで転戦できるうちは楽しいし、励みにもなるけど、子供たちが成長して意志表示がしっかりしてくると、逆に父親は大変になる。自宅に家族を置いて試合に行こうとすると、子供たちは『パパ、行かないで』と泣き始める」とは、ウッズの言。
デイは米ツアーでも屈指のファミリー重視型だ。愛妻エリーと長男ダッシュくんはファンの間でもすっかりお馴染みの存在。昨秋には長女ルーシーちゃんが生まれ、プレーヤーズ選手権で勝利を決めた直後には18番グリーン上にデイの一家4人の微笑ましい姿があった。
そんなデイだからこそ、ゴルフと家族のバランスをいかに維持するかが今後の王座維持のカギになるのだとウッズは強調しているそうで、人間味あふれるそうしたやり取りをしているデイとウッズは、かつての世界一と現在の世界一というよりも、良き友である。
デイとウッズには、似ているところがある。プロゴルファーに故障はつきものではあるが、長年、腰や膝の故障を抱えながら戦い続けてきたウッズにとって、手首や足腰の故障のみならず、めまいを発症する持病を持つデイの苦悩は他人事ではないだろう。
ウッズはアメリカ人だが、黒人であるがゆえに白人社会の中で差別され、悲しい想いを味わいながら育った。デイは父親がオーストラリア人で母親はフィリピン人のハーフ。そのため幼少時代は差別やいじめを受け、渡米後はアメリカ人社会の中で国籍による差別も受けた。マイノリティとして追いやられるくやしさや失望、怒りは、デイとウッズの共通項であり、それが彼らの友情を固める漆喰(しっくい)のような役割を担っているのではないか。
ウッズ時代に続くものがデイ時代なのかどうか。その答えを出すには、まだ時期尚早だが、今、ウッズからデイへ、大切なものが引き継がれつつあることだけは確かである。

▲圧倒的な飛距離と小ワザも駆使して、胸を張り前向きにプレーするジェイソン・デイ

▲ここ数年のウッズは、納得のいかない表情でプレーしている。がっくりと肩を落とす時も
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