初っ端から雨で中断。松山は予選落ち。ビッグネームの名も上位にほぼなし。そんな今年の全米オープンで、舩越園子が注目していたのは、ズバリ日本男児だった
雷雨、中断、日没と実力者の低迷
今年の全米オープンは、いろいろあった。雷雨中断と日没サスペンデッドを繰り返した不規則な進行。ジェイソン・デイ、ジョーダン・スピースが大きく出遅れ、ローリー・マキロイが予選落ちという、世界トップ3たちの予想外の低迷。メジャー初優勝を期待されていた松山英樹も、通算12オーバーと大崩れして予選落ち。そして、最後の最後にダスティン・ジョンソンの身にふりかかったルール上の珍事は、USGAが翌日に謝罪声明を出す事態へと発展。昨年の大会は舞台となったチェンバーズベイに批判が集まり、今年こそはと張り切っていたUSGAだが、名誉挽回どころか2年連続で批判の的となる結果になってしまった。
しかし、だからといって今年の全米オープンが失敗だったのかと問われたら、決してそんなことはない。
未曾有の降雨と落雷による送水管破裂事故で冠水したオークモントをプレー可能な状態へすぐさま修復し、最終日のグリーンを雷雨に打たれる前の硬く速い最難関のグリーンへ戻したメンテナンススタッフたちの不眠不休の働きは、見事というほかなかった。
そして、ドライバーという武器を最大限に活かし、ルール上のトラブルにも負けず、悲願のメジャー初優勝を飾ったジョンソンのゴルフも、本当にお見事だった。
あいまいな事態の下、徐々にリードを広げ、ホールアウト後に科せられる一打罰を自力で無意味と化していったジョンソンの戦いぶりは実に爽快で、72ホール目の第2打がピン1メートルを捉えた瞬間、すべての波乱や騒動がフェードアウトしていった。
逆に、今大会でクローズアップされて感じられたものは日本人選手たちのポテンシャルとチャンスだ。数年前は「石川遼しかいない」、昨今は「松山英樹しかいない」といわれ、ことあるごとにスター不在を指摘される日本の男子ゴルフ界。しかし、まだまだ望みは広がることを感じさせてくれた大会だったと私は思う。

▲2016年全米オープンは、米国のダスティン・ジョンソンが悲願のメジャー初V
背水の陣でも前向き、池田勇太のこれから
池田勇太にとって今大会は2010年以来、2度目の全米オープン。日本予選を勝ち抜いて自力で出場権をつかんだとはいえ、長年の総合契約を失った状況下にある池田は、ひょっとしたら落ち込んでいるのではないかと少々心配していた。
だが、久しぶりに会った池田はオークモントで伸び伸びとクラブを振り、表情は以前よりむしろ明るくなっていた。
「去年の12月で30歳になって、それで吹っ切れた。選手会長を終えて、これからは自分のために時間を費やそうと思っていろいろ考えた。今までと違うトレーニングや練習をしたり、準備の仕方を変えたり。そのおかげで(成績が)よくなっていたりもする。そういうのが積み重なって、今、ここに来られている」
ゴルフバッグを覗いてみると、ドライバーはプロギア、フェアウェイウッドはキャロウェイ、アイアンはヨネックス、ウエッジはブリヂストンとヨネックス、パターはオデッセイという具合。
「寄せ集めのバッグだけどよお、好きなクラブが活かせるのは確か。これで成績が出ているのも確かだからな」
総合契約を結んでいたころは、メーカーのレップがクラブの調整や修理を何でもやってくれていたが、今は自分の手でやることが増えた。
「このアイアン、ここにカーボン入ってんだぜ。オレも知らなかったんだけど、そういわれて、へえ~って驚いちまった」
新たに学ぶことは多く、工夫も求められる。鉛のテープを小さく切ってはヘッドに貼ったり、シャフトに貼ったり。キャディとともに「どう?」「もうちょっとかな?」と生き生きした表情で実験を繰り返す。それは何でも自分でやって、それが楽しくもあったジュニア時代、アマチュア時代に戻ったような感じでもある。
以前は、ゆったりめのシャツとパンツがトレードマークで「それが一番動きやすいオレの仕事着」と自負していた。その契約を失い、新たに得た契約先(マスター・バニー・エディション)のオシャレなウエアは、池田をすっかり垢抜けた雰囲気に変えたが、「実はさあ、最初は慣れるのが大変だった。パンツよりシャツのほうが(以前のダブダブと比べると)つっぱり感があって、構えるのも大変で、違和感があった」。
いろんな意味でキャリアにおける波乱に遭遇しつつある池田だが、それらをポジティブに受け止め、前向きなパワーに変えているところに彼のこれからの可能性が感じられた。
開幕前にオークモントで定めた目標は高かった。「トップ10とかいっちゃってるけど、ホント、これはコースとの戦いで粘り勝ちなので、結果をついてこさせたい」
残念ながら「気合いを入れ過ぎた面もあった」と振り返った今回は、やや空回り気味で予選落ちとなった。だが「この2日間の経験は力になる」と、意欲はさらに増している。
プロゴルファーとしての環境から見れば、ある意味、今の池田は背水の陣。それでも気落ちせず、腐ることなく、逆に気勢を上げて次は全英オープン、おそらくは全米プロにも挑む池田は、かつてないほど頼もしく見える。苦しいときほど笑え。そんな池田の精神力と行動力が大きく実る日はきっと来る。

▲2クラブの総合契約がなくなった池田勇太。「寄せ集め」状態だが、たくさんの選択肢からクラブを選べる
初出場で奮闘した宮里優作の可能性
日本ツアーでは、すでに中堅からベテランに数えられる宮里優作と谷原秀人。宮里は大会最終日に36歳になり、谷原は現在37歳。30代後半で全米オープン初出場は、若年化が著しい昨今のゴルフ界においては、やや出遅れ気味と見られてしまうのかもしれない。だが、宮里も谷原も今の彼らだからこそ最難関のオークモントで予選を通過し、4日間を戦うことができたのだと思う。
宮里はパー4の第2打がそのままカップに転がり込むこと2回。驚きのイーグルに助けられた部分もあるにはあった。だが、オークモントで眺めた宮里のゴルフには、そんなラック以上にステディなプレーぶりがはっきりと見て取れた。
「ピンを狙いたいホールがあるけど、それは最終日まで我慢ですね。フェアウェイをキープして、じっとするゴルフを心がける。グリーン上は10ヤードの幅に落としてロングパットを生かす」
宮里が描いたオークモントの攻略プランは、なかなかスポットライトを浴びられずとも好機をじっと待ち、ようやく世界の舞台に挑むチャンスをつかんだ彼のキャリアそのものに感じられた。
トップ15入りも夢ではなかった今大会。最終的には23位で終わったが、「日本でやってきたことがここでも通用するとわかったのは収穫。想像以上にやれた」と宮里は手ごたえを感じていた。
そう、基本的な技術力において遜色はない。世界でも通用する力は持っている。本当の課題は、それを「通用させる力」であると肌で感じた宮里のこれからに期待が膨らむ。
「こういう場所に出続けることが大事。4日間、安定させることが大事。英樹が予選落ちした分、僕らがやるしかないと思ってやった」
宮里のその気概は日本でも世界でも必ず生きてくると信じたい。

▲全米オープン初出場で、今回の日本人選手中最上位になった宮里優作
やっと地に足を付けて歩みはじめた谷原秀人
谷原秀人はオークモントを4日間戦ったことで、あらためて自身の歩みが正しかったことを再認識していた。かつて米ツアーに挑んだ谷原は、夏場にはすっかり疲弊し、下を向くばかりの日々を過ごしていた。成績は低迷し、米ゴルフ界で有名なコーチの指導も仰いだが、もがけばもがくほど迷路にはまっていき、ついに彼はシーズン半ばで米ツアーから去った。
だが、その翌年には全英オープンで5位になり、日本ではこれまで通算10勝以上を挙げてきた。そして今年は37歳にして全米オープン初出場。「僕の場合は技術イコール、メンタルなので、技術を身に付けないとメンタルも上がらない」と自分の歩む方向に迷いはない。
かつて心が揺れに揺れた米ツアーでの苦しい日々を振り返り、「あのころは感覚が麻痺していた。みんな速いスピードで(クラブを)振っちゃうから、それを同じようにやっちゃおうとしちゃったんですよね、同じじゃないのに」と、当時は見えなかったものが、今ははっきりと見えているようだ。
「今年で38歳です。まだまだ先に行けたらいいなと思います。周囲を見渡せば、なんだかんだいっても、みんなやってるじゃないですか。フィル・ミケルソンもそうだし、藤田(寛之)さんも谷口(徹)さんも。ジム・フューリックもそう。飛ぶわけじゃないのに。年齢は関係ないですよね。技術が上がれば。精度を身に付ければ――」
まだまだ行ける。自身が感じるその希望と期待が、谷原の表情を強く明るく変えている。
「じゃあ、次は全英で!」
そういって、握手を求めてきた谷原は、10数年前、落胆の果てに帰国していった谷原とは、もはや別人。歳月が流れ、齢を重ねた分、彼は選手としての年輪を増し、すっかり強くなっている。
松山のように若くして早々に結果を出すスーパースターもいれば、回り道をしたけれどそのぶん土台を固め、これからの可能性と意欲を秘めている選手たちが日本にはちゃんといる。彼らはこれからもじっくり歩んでいくのかもしれないし、ある日、突然、ポンと突出するのかもしれない。
そんな彼らに日頃から目を向け、声援を送ってあげてほしい。形はどうであれ、温かく見守り、サポートしてあげてほしい。
長い目で、じっくり――。そうする以外に日本のゴルフ界の未来はない。そんなことを考えさせられた全米オープンだった。

▲宮里とともに決勝ラウンドへ進んだ谷原は、帰国後のトーナメントで2連勝

▲期待の大きかった松山は残念ながら予選敗退だった
この記事が気に入ったら
SNSでシェアしましょう!