今季も1年間、選手たちを間近で見てきた舩越園子が、2016年度の米ツアーを総決算。注目はスター選手たちを筆頭にした選手層の厚さというよりも、その広がった「幅」だという。
「タイガー時代」から「若い選手の時代」へ
米ツアーの2016年シーズンが終了した今、この1年を振り返って思うことがある。
それは、米ツアー全体としての選手層は昨年も今年もますます厚く深くなっているが、なかでもトッププレーヤーと呼ばれる選手たちの「幅が広がった」1年だった、ということだ。
タイガー・ウッズがプロデビューした96年から10数年以上の間、米ツアーはほぼ毎シーズンが「タイガー・ウッズの年」だった。08年の全米オープンを最後に、ウッズはメジャー優勝から遠ざかり、13年のブリヂストン招待を最後にレギュラーツアーの優勝からも遠ざかっているが、それでもウッズの存在感は大きく、ウッズあっての米ツアーという印象や空気は、米ゴルフ界に当たり前のように存在し続けてきた。
しかし、近年はその空気が若きスター選手たちの登場で徐々に薄まりつつある。昨季はマスターズと全米オープンを続けざまに制したジョーダン・スピースと、全米プロを制したジェイソン・デイが、どちらも年間5勝を挙げ、ウッズ時代からスピース時代、デイ時代へと世代交代が進んだ印象だった。「ウッズ時代の終焉」「スピースとデイの1年」とまでいわれた。
では、今年は誰の1年だったのか?と問われても即答することは難しい。とはいえ、際立った活躍をしたスター選手がいなかったわけではない。むしろその逆で、素晴らしい勝利を収めた若きスター選手が「たくさんいた1年だ」と答えるのがよさそうだ。
確実に実力をつけたビッグな優勝者たち
今年、マスターズを制したのは英国のダニー・ウィレットだった。全米オープンでは米国のダスティン・ジョンソン、全英オープンではスウェーデンのヘンリック・ステンソン、全米プロでは米国のジミー・ウォーカーが勝利を収めた。
メジャー4大会の覇者4人ともが、メジャー初優勝者。しかも、ラッキー優勝やシンデレラストーリーではなく、底力のある中堅選手たちが数々の辛酸をなめた上で収めた悲願のメジャー初勝利だった。そんな彼らのうれし涙や笑顔は、自信を膨らませ、勝利を契機に一層強くなり、さらなる飛躍を彼らが見せてくれるであろうことをゴルフファンに予感させてくれた。
中でも全米オープン覇者となってからのジョンソンは著しい成長を見せた。全米オープンに続き、世界選手権シリーズのブリヂストン招待を制して勢いを増し、その勢いはシーズンエンドのプレーオフまで持続した。
そして、プレーオフ第3戦のBMW選手権を制すると、最終戦のツアー選手権でも優勝争いへ。残念ながら最終日に崩れ、マキロイに逆転優勝とフェデックスカップ総合優勝、10ミリオンのビッグボーナスのすべてを奪われてしまったが、メジャーとWGC、プレーオフというビッグ大会ばかりを制してシーズン3勝。年間936万ドル超(=約9.5億円)を稼いで賞金ランク1位に輝いたジョンソンは「今年はグレートな1年だった」と満足そうに振り返った。
もちろん、そのジョンソンが王手をかけていた勝利を逆転で奪い取ったマキロイは、ジョンソン以上に「いい1年だった」と笑顔を輝かせた。
今季のマキロイは不調だったわけではないが、最終日に崩れて勝利を逃すことが多く、未勝利のままレギュラーシーズンを終えた。だが、プレーオフに入ると第2戦のドイツ銀行選手権を制し、最終戦のツアー選手権にも勝利し、自身初のフェデックスカップ総合優勝に輝いた。
フェデックスカップの最終ランキングはシーズン終盤に勢いを増したマキロイが1位、ジョンソンが2位となったが、シーズン終了時点での世界ランキングはデイが1位を維持し、ジョンソンが2位、マキロイが3位、そしてスピースが4位となった。
そう、昨季を彩ったスピースとデイはシーズン終盤に失速してしまった感がある。とりわけデイは、背中痛を発症してプレーオフ第3戦のBMW選手権も最終戦のツアー選手権も途中棄権したため、失速の印象は否めない。
だが、彼らにとって今年が不調で不満の1年だったかといえば、そんなことはない。
デイは春先のアーノルド・パーマー招待と世界選手権シリーズのデル・マッチプレー選手権で2週連続優勝を達成。さらに「第5のメジャー」と呼ばれるプレーヤーズ選手権を制して年間3勝を挙げた。
スピースは今年始めのヒュンダイ・トーナメント・オブ・チャンピオンズで早々に1勝を挙げ、その後はやや振るわない時期もあったが、夏が近づいたころ、地元テキサスで開催されたディーン&デルーカ招待を制し、年間2勝を収めて故郷に錦を飾った。
こうして振り返ってみると、今季は特定の選手に彩られた1年ではなかったが、今季を彩った選手の人数と幅が格段に増した1年だったといえそうだ。

▲マスターズを制したのはダニー・ウィレット。ニック・ファルド以来となるイングランド勢の優勝となった

▲全米オープンなど年間3勝し、賞金ランクトップで終わったジョンソン。この1年でさらに強くなった選手
想像通り大きかったリオ五輪の影響
トッププレーヤーたちの幅が広がったことに加え、16年シーズンを振り返って感じることがもう1つある。
今年はとても忙しく早足で過ぎていった1年だった。例年以上にそう感じさせたものは、いうまでもなくリオ五輪による影響だった。
五輪開催の時期との兼ね合いで、今季は全米オープン、全英オープン、全米プロの3つのメジャーが2か月のうちに開催され、それらが終わった途端、リオ五輪へ、プレーオフシリーズへ、さらに欧米選手はライダーカップへと続いていった。そんな超過密スケジュールが早足の1年という印象を選手にもファンにも抱かせた。
リオ五輪開催前は、ブラジルの情勢不安や治安の悪化、ジカ熱の蔓延などさまざまな情報や噂が飛び交い、代表候補の選手たちは出場するか欠場するかの判断を巡って、あれこれ気を揉む日々が続いた。
意を決してリオへ赴いた選手。意を決して出場を辞退した選手。どちらの決断も尊重すべきだが、大切なのは、自身の決断をその後へどうつなげることができたかだと思う。
蓋を開けてみれば、事前の悪評がウソのように美しい姿を現した五輪コース。そこで素晴らしい戦いを披露したジャスティン・ローズが金メダル、ステンソンが銀メダル、マット・クーチャーが銅メダルに輝き、彼ら3人が表彰台に立ったシーンは世界のゴルフファンを釘付けにした。
五輪出場を辞退した選手たちの反応はさまざまで、デイは「出場しなかったことに後悔はない」ときっぱりいい切ったが、スピースやマキロイは「欠場を決めた判断が誤りだったとは思わないが、出なかったことを残念に思う」と後悔の念を口にした。ジョンソンは「五輪に出たかどうかではなく、国を代表してプレーしたいと思うかどうかが大事」といった。
マキロイとジョンソンのプレーオフシリーズでの奮闘ぶり、そしてスピースを含めた欧米選手たちのライダーカップへの熱意と実際の戦いぶり。そこには「自分さえよければ」ではなく、「母国や大陸の名誉のために」という彼らの真摯な想いが溢れ、だからこそ若きトッププレーヤーたちが一層ビッグに感じられた。

▲紆余曲折を経て開催されたリオ五輪のゴルフ競技。ローズが金、ステンソンが銀、クーチャーが銅という結果に
トッププレーヤーに問われた総合力
名実ともに世界のトッププレーヤーと見なされ、スター選手と呼ばれるためには、ツアーで何勝を挙げたのか、メジャーを制覇できたのかといった戦績、実績は大前提。飛距離は出るのか、ショットの正確性は高いのか、小技でどこまで拾えるのか、パットは上手いのか。そんな技術的上手さもトッププレーヤーの必須条件ではある。
だが、その両方がそろっただけでは不十分なのだ。今季のように例年とは異なる強行スケジュールになろうとも、きっちり対応していけるタイムマネジメント術と気力体力。難しい判断や決断を迫られ、精神的に苦しい日々になろうとも、結果的に下した判断を後悔せずに、何があっても乗り越えていく精神力やセルフコントロール術。それらが必要であり、そんな総合力が選手たちに問われた1年だった。
そして、さらに多くの選手たちが、その総合力を身につけつつあり、これからのトッププレーヤーの座を虎視眈々と狙っている。
今季2勝しながらもライダーカップ出場が叶わなかったラッセル・ノックス。最終戦のツアー選手権でマキロイに最後まで食い下がったライアン・ムーア。親友のスピースに追いつき追い越せの勢いで迫りつつあるジャスティン・トーマスやスマイリー・カウフマン。そして、米ツアー2勝目を挙げた松山英樹。21歳にして米ツアーで初優勝した韓国のキム・シウ。今季も未勝利に終わったものの、ツアー選手権を最後まで盛り上げ、存在感を強めたケビン・チャペル。
米ツアーの選手層は確かに厚く深いけれど、ピラミッド上層部のトッププレーヤーたちの層は深さや厚みだけでなく、幅をも広げていて、彼ら自身、人間としてゴルファーとして大きくなったのだ。
16年シーズンは、そんな実り多き1年だった。

▲今年度は後半にかけて、大きな大会で上位に食い込むなど、結果、賞金ランクでは総合2位となったデイ

▲最後においしいところを持っていったマキロイ。フェデックスカップ総合優勝と賞金1000万ドルをゲット
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