連載コラム

三好徹-ゴルフ互苦楽ノート

静かな対決は終りか?

2013/2/7 21:00

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 ボールを用いるスポーツはいろいろある。日本やアメリカで人気があるのは野球で、それを職業にするプロ選手の収入も高額になる。アメリカではバスケットやアメフトの人気も高いが、日本ではこの両種目は興業として成り立たない。また、ヨーロッパや南米では、サッカーがナンバーワンで、野球はほとんど無視される。オリンピック種目に野球が採用されないのは、競技人口や地域が世界的に見た場合に少い、と見なされているからなのだ。人口大国の中国、インド、ロシア、ブラジルでは野球は大衆スポーツではない。人気なのはやはりサッカーである。ボール一個と広場があれば何人かでやれる。野球はサッカーと同じ程度の広場があればプレイできるが、ゴムまりのほかにバットが必要である。硬式はもとより軟式でもグローブなしでは手が痛い。

 競技のルールも野球は面倒であるが、その点でサッカーは単純である。少年たちのゲームなら、ゴールにネットが張られていなくてもできる。また、アメリカの大リーグのトップ級になると、日本人でも年俸1000万ドル以上の契約を結べるし、日本国内でも5億円以上の契約をする選手もいる。むろん、そうなるにはプロ入りしてから何年かの活躍を必要とするが、ヨーロッパや南米のサッカー選手は、学歴はなくても20代で10億円くらいの収入を得る選手は少くない。

 ゴルフのプロも現在では野球やサッカーに負けない。タイガー・ウッズの年間収入は、試合の賞金のほかに契約料などで約1億ドル、プロスポーツのナンバーワンといわれている。ひところセックス・スキャンダルで契約を何社も解除されたらしいが、試合に出て勝ちはじめると、別のスポンサーが出てきた。メジャー14勝のプロは現在タイガーだけ。彼の商品価値は高いのだ。余計なお世話だが、税金もあるし社会事業への寄付もかなりの額になるはずだから、あれやこれや大変だろう。

 個人的なことになるが、わたしがゴルフに魅力を感ずる理由の一つは、勝敗の責任は自分ひとりが負うところにある。碁や将棋を好むのも同じである。助言は無用であり、自分の技量に応じて勝てば嬉しいし、負ければくやしい。碁は日本棋院、将棋は将棋連盟からそれぞれ技量なみに段位を頂戴しているが、負けたくないから自分の技をみがいた。その点はゴルフも同じである。といっても、同じ年代の仲間と四十歳台を半ばすぎてからゴルフをするようになったから、多少はうまくなったとしてもタカが知れている。仲間の中には、シングルにならないうちは死ねない、といったものがいた。わたしは、そんなふうに思いつめたことは全くなかった。自分の能力で勝負できればいいのである。

 ところが、ライダー・カップやプレジデンツ・カップのTV中継を見ていると、チームのためにプレイする感じが濃厚になっていることに驚かざるを得なかった。

 1個のボールを1組2名の選手が交互にショットする方式、2人が自分のボールを用い、よい方のスコアをチームの得点にして相手チームと競う方式、それぞれ12人の選手によるマッチプレイの結果をすべて点数に置き換える方式。これがライダー氏の寄贈したカップの争奪戦で、長い歴史があるのだが、最初はアメリカ合衆国対英国の対抗ゴルフ(2年に1度)だった。現実にはゴルファーの人数が多いし、ベン・ホーガンのような名手の多いアメリカが一方的に勝つようになってしまった。そこでニクラスの提案でヨーロッパ各国から選手を選抜するように改め、米国チームの一方勝はなくなった。むしろこのところ欧州チームの5勝1敗。そのせいかゴルフの試合であるのに、コースに「アメリカ頑張れ」の声が響くのである。タイガーやミケルソンら個人の名前ではないことに、わたしには違和感が生じてきた。

 一対一の勝負は、静かであるが、双方の気合がほとばしって、傍らにある人は身動きできなくなる。だが、米国対欧州のチーム戦になると、声援の大声が各ホールで響くのだ。アメリカの方は「ユー・エス・エー」である。選手個人の名を叫ぶわけではない。野球で満塁に打席に立った打者に観衆が「ナガシマ!」と絶叫する場面とは違うのだ。

 ゴルフはチーム競技ではなく、本来は静かなる対決なのだ。それが国家を代表する形式になると、観衆が声を出して選手を応援する。わたしの考えでは、そうなってきたのはセベ・バレステロスの出現からである。全英オープンの最終日にセントアンドリュース18番ホールで、彼はバーディを取ったとき、ガッツポーズをくりかえした。その動作のたびにセベの名が叫ばれ、17番ホールにいる1打差のトム・ワトソンの耳にも届いた(はずである)。

 セベはスペイン出身、闘牛の国である。わたしはもう20年以上前になるが、マドリッドとバルセロナで観戦した。野球やサッカーの試合観戦とは全く別なのである。バルセロナでは闘牛士が突進してくる牛の角にハネられたから大騒ぎになった。セベのゴルフは彼自身が血をたぎらせてプレイしたから、上品な所作を好む階層からは嫌われた。だが、彼はライダー・カップでもチーム入りすると活躍し、バンカーからカップインさせたり、20メートルを入れたりした。主将をつとめたときも米国チームを負かした。彼は2012年にこの世を去ったが、欧州選抜対東ア ジ洋ア 選抜のチーム戦ロイヤル・トロフィが創設されたのは彼の努力によるもので、第6回が昨年12 月中旬にブルネイ王国で開かれた。ロイヤルだから共和国の開催ではそぐわない。セベは、米国チームがライダーとプレジデンツで結局は毎年チーム戦を体験するので、欧州のプロにも独特のチーム戦のゴルフを体験させようと考えたのではないだろうか。日本から石川遼と藤本佳則が出て、2人が組んだ2日目のベストボールは勝った。尾崎直道主将が飛びついて喜んでいた。日本では見られない光景で、もしかすると新しい時代が到来するのか、と思わされた。

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