本誌2月号の特集「目指そうエイジシュート」を読んで、あれこれ考えさせられることが多かった。いうまでもなく自分の満年齢以下のスコアで18ホールをプレイするのがエイジシュートである。ただし18ホールの総距離が6000ヤード以上であるのが唯一の条件であって、日本の行楽地のコースの中には、それだけの距離のないものが結構多いのだ。また3000ヤード以上ある9ホールのコースを2回ラウンドした合計のスコアをワンラウンドと見なしてよいのか、また、同一コースの18ホールを2日に分けてプレイしたスコアは承認されるか、という問題もある。
そういう細かい条件にこだわらなくてもいいじゃないか、という考え方もあるだろうし、それとは逆に、おめでたい事だからという理由で距離のルーズさに目をつむるわけにはいかん、という人もいるだろう。わたしの考えでは、エイジシュートはルールブックに掲載されているものではないから、本人が達成したと喜んでいるなら、例えば、「550ヤードのパー5のホールが修理中で310ヤードのパー4にしてありましたね。パー72が71になったのは構いませんが、ヤーデージはスコアカードの6150ヤードではなくて現実には5910ヤードになっていたわけです。従って距離についての条件は残念ながら失格ですね」
ということはしないだろう。あるいは、18ホールをカート使用でラウンドした場合は承認しない意見が強いらしいが、わたしは、本人がエイジシュート達成だ、と喜んでいるならば、そういう異議を申し立てることはないじゃないかという考えである。プロの試合でプレイオフになった場合、18番ホールを使うと、ホールアウトしても決着がつかないときはカートでティグランドまで戻っている。正規のラウンドではカート使用を認めていないのに、どうしてプレイオフで認めるのか。ギャラリーは結果を待っているし、日没は迫っている。要するに時間節約のための便宜的な処置である。もちろん、この場合のカート使用は競技委員会が認めた以上合法であるが、ご都合主義であることは確かなのだ。
現実に年齢以下のスコアを出すのは、ゴルフが商売のプロでも難しい。日本では、中村寅吉、杉原輝雄、青木功らが試合で達成しているし、ほかにも何人かいるだろう。アメリカでは、レイ・フロイドが63歳で63を出しているが、実績では一番のニクラスは試合では達成していない。もう試合に出ない以上、あとは友人家族との私的なラウンドのみである。
文壇ゴルフは、出版社や新聞社の主催するコンペがあるが、以前と比べると、その数は激減している。ただしそれ以外に、昭和12年から行われているコンペがある。名称は「ペンマン・ゴルフ会」略称PGAという。メンバーは出版社新聞社関係の人、作家、画家で基本的に月一回。わたしが入会して数年後、50歳になったころの話だが、毎日新聞出身のK氏と読売系のS氏と同じ組でスタートした。K氏はロンドン特派員だったとき、日本陸軍が当時の満州(中国の東北三省)で軍事力を行使した事件の国際調査団の報告書を公表前にスクープした記者だった。その調査団の団長は英国のリットン卿で、現地調査のあと昭和7年9月に日中両国に報告書が渡され、10月にジュネーブで公表されるという日程だった。わたしは明治以後のジャーナリストの物語を書いたので、この国際的な特ダネの内容も知っていた。またS氏は野球の巨人軍の社長だったころに話を聞いたことがある。王貞治選手が入団したとき背番号を1にした理由は、王が中国語でワンと発音するからだという説明だった。スタートして間もなくS氏がK氏に聞いた。何歳になったか、を問うたのだが、K氏が87歳ですと答えると、S氏はいった。「87か。若くてええの」
わたしはびっくりしてS氏の年齢をたずねた。93になった、という返事である。なるほど、S氏から見れば、6歳年下の老人は“若くていい"になっても不思議はない。S氏はカップインした球をキャディに拾い上げてもらったが、18ホールを完走した。87歳の若さを羨望されたK氏もむろん完走した。両先輩に共通していたのは、プレイも歩行もきびきびして速かったこと、体型は共にやせぎみの中肉中背だったことである。両先輩のゴルフキャリアは聞きもらしたが、K氏のキャディバッグはロンドン勤務中に買ったというズック製の年代物だった。PGAのメンバーだった人でいうと、エイジシュートを達成したのは丹羽文雄と水谷準両氏である。丹羽さんは81。水谷さんは81から84まで4回。二人とも身長は1・68メートルのわたしとほぼ同じ、体重は60キロのわたしよりも、いくらか太めだった。
こんなことを書くのは、本誌の特集に登場した10人のエイジシューターの体型と共通する点が多いからである。年齢は75歳から88歳まで、身長は160センチから169センチまで、体重は52キロから79キロまで。10人の平均は80・3歳、165センチ、66・5キロとなる。最高齢(88歳)の方は昨年160回ラウンドして138回を達成したそうだから、これは「もの凄い」というしかない。平均して月に11回のエイジシュートは、誰にでもできるものではない。それだけの体力や時間、それに経済的余裕も必要である。10人の平均値だから絶対的な数値ではないとしても、全員が身長170センチ以下で体重も7人が70キロ以下であることに注目したい。
丹羽さんも水谷さんもこの条件を充たしていた。丹羽さんは熱心にスイングの研究をしていたし、ベン・ホーガンの「近代ゴルフ」を訳した水谷さんは、米英の新しいゴルフ関連本に目を通していた。わたしも体型的には合格だが、ゴルフの実力においては全く話にならない。それに、エイジシュートをゴルフライフの晩年の目標にしようとする闘志に全く欠けている。「好きこそ物の上手なれ」という俗諺はあるが、ゴルフについては当てはまらないのではないか。また、PGAは戦中戦後の中断があるので実質的に約70年の歴史があるが、この先両先輩の後を継ぐ人は出そうにない。
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