連載コラム

三好徹-ゴルフ互苦楽ノート

パッティングの雑談

2014/12/30 21:00

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14本のクラブでドライバーが一番大事だといった仲間はパットは●●だ、というけれど…



 ゴルフをはじめたころのことだから、かなり昔の話になるが、スタートを待っている間の雑談で、14本のクラブの中で、何がもっとも重要か、の話になった。

 ドライバーだ、といったのは、仲間の中でも一番飛ばす男だった。学生時代は、スポーツには無関心だった男で、例えば野球の日本シリーズで、どちらが勝つかの話が出ても、さして気にならない、というよりは、どちらが勝とうが、天下の大勢には関係がない、という考えである。わたしも学生時代にはスポーツには縁のなかった方だが、学生新聞の編集をしていたから、対外試合の結果を掲載するために、野球部の選手から話を聞くこともあった。締切りまでは時間があるから、試合を見なくても原稿は書けるが、やはり現場に足を運ぶ方がいいに決っている。それでも、試合に負けたときは、選手たちも疲れているから、何を聞いてもブッキラボーになり、実のある話を聞くことができない。従って、日をあらためてということになり、新聞部の部室にきてもらう。

 新聞部の部屋には碁盤があった。私より二年先輩の部員が碁好きで、折りたたみの盤と碁石を持ちこんできていた。授業がつまらないときに、部室にきて碁を並べるわけである。これは、江戸時代の名人たちの碁を解説した本があり、先輩はそれを持参して名人たちの打った手を再現して、その手の深い意味を理解するわけである。

 一般にどの分野でもスポーツではプロとアマチュアとの技術の差は、越えられない差がある、と見なされている。例えば、相撲はその一つである。アマチュアの全国大会で勝った選手でも、プロの十両相手に勝つことはほとんど不可能である。だが、野球は必ずしもそうではない。

 野球が日本に渡来したのは、明治30年ごろだといわれている。学校の制度が今とは違っていて、中学が5年制であり、その上に高等学校あるいは専門学校の3年制、さらに上の大学3年制があった。小学校の6年は変っていないから、6533の計17年だった。今は6334の16年である。

 高等学校と専門学校を一くくりにして高専といったが、体格においては、高専の学生は成人に近い。だから、全国大会で勝った学校は大学の優勝校と戦っても五分に戦った。その証明は、プロ野球が誕生する前に米国大リーグの選抜チームが来日したとき、大学高専の選手で結成した全日本チームが対戦したが、横浜高商(現横浜国大)チームが単独で大リーグ選抜と対戦しているのだ。また、当時は六大学野球がスポーツ中継の花形で、球場に行けない人もラジオ中継にかじりついたのである。

 ゴルフは、はじめはアマチュアがプロよりも上であった。第一回の日本オープンに勝ったのは、アマチュアの赤星六郎である。彼は兄の四郎とともにアメリカの大学に留学中にゴルフを覚えた。

 ゴルフは、はっきりいって、金のかかるスポーツである。まず用具が高価であり、ゴルフ場を使用するために金がかかる。今では、大学生などは試合のときに自分でバッグをかつぐが、それでも、キャディに払う金が節約できるだけである。学生のためにグリーンフィを安くしてくれるコースもあるが、それは例外といってよい。サッカーなどはボール一個あれば、何人かの子供が集って遊べるが、ゴルフはそうはいかない。サッカーの世界大会にはどの国も熱狂するが、ゴルフの場合はどうしても国による差が出てくる。世界大会ではないが、全英オープンや全米オープン、マスターズなどが各国に中継されるが、ゴルフをする国よりもしない国の方が多いのである。普及に限界があるのは、経済的な理由にあるといってよい。

 そんなこともあって、ゴルフ仲間がプレイの合い間に、14本なんて必要ないではないかの話になったことがある。以前は制限がなかった時代には、30本以上をバッグに詰めこんだプロもいたというが、14本に制限した根拠は何なのか、わたしたちの間では、その由来を知るものはいなかった。わたし自身は、バッグに14本を入れても、現実にコースに出て使用するのは、ドライバー、クリーク、アイアンの6、7、8、9、10、11、パターくらいのものである。

 もともと練習好きではない。ゴルフ場に到着してからスタートまで1時間以上余裕があっても、コーヒーを飲んでから、パターを持って練習グリーンに行くくらいである。本当はドライバーや6、9番のアイアンとサンドウェッジの練習をするのが賢明だ、とわかっているのだが、それをしない。だから、ゴルフが上達するはずがなかった。

 それでも所属コースのオフィシャルハンデキャップが16までは記録したのだ。練習もせずにそこまで行けたのは、パットがよかったためだと思っている。

 わたしの仲間には、レッスンプロに入門してウッドもアイアンも徹底的に教えられたものもいる。もちろんドライバーはわたしよりも飛んだし、パー3のホールでもオンすることが多かった。現に、彼はホールインワンを2回達成している。1回というのは、わたしを含めて何人もいるが、2回は彼一人なのだ。

 彼がゴルフについて残念がるのは、いかに練習しても、パッティングに関して、どうしてもわたしにかなわないことだった。

 彼は「パッティングは、天性のものだと達観したよ」といったことがある。わたし自身は、その考え方に賛成していない。30センチは誰でも入れることができるが、1メートルになったら10人のうち何人が入れるだろうか。むろんフラットなグリーンでの話である。いつだったか、アメリカ旅行のときに買った本でプロでも50パーセントだ、と出ていた。もしマスターズの勝利のかかるパットなら、50パーセント以下だろうとある。

 パッティングには碁の名人の打った碁を並べてヒントを得るような手段はないものだろうか。

三好 徹
1931年東京生まれ。読売新聞記者を経て作家に。直木賞、推理作家協会賞など受賞。社会派サスペンス、推理、歴史小説、ノンフィクション、評伝など、あらゆる分野で活躍。ゴルフ関連の翻訳本や著書も多い。日本の文壇でゴルフを最も長く愛し続けてきた作家。

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