連載コラム

三好徹-ゴルフ互苦楽ノート

ゴルフ・フェア会場にて

2015/5/2 21:00

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ゴルフ・フェアの会場を見ていると興味をそそられる一角があり、そこで展示されていたのは……



 ジャパン・ゴルフ・フェア2015が2月中旬に開かれた。一言でいえば、ゴルフ用品の展示会である。ことしで49回目。日本ゴルフ用品協会の主催で、シーズンの開幕前に各メーカーが新しい用品を展示し、男女プロのトーク・レッスンやニアピン、ドラコンのチャレンジ・コーナーもあった。また各地のゴルフ場の出品する食品も来場者の人気を集めて、長い列ができていた。

 ゴルフに限ったことではないが、一般の人にとっては趣味あるいは遊びに関して、時間だけではなく、用具について多少の金がかかる種目もある。ゴルフはその一つで、ゴルフコースに支払う料金のほかに、プレイに必要な用具にも金がかかる。ゴルフ場に行けば、レンタル・クラブがあるから、自分用のクラブ(バッグやボールその他も)を買わずにすむとしても、やはり専用のセットを持ちたくなるのは当然といっていい。わたしは、ゴルフをはじめたときには、ゴルフのうまい出版社の社員が同行して、ウッド、アイアンに関してはアドバイスしていただいた。シャツやズボンなどは、人それぞれの好みがあるからどれでもいいようなものだが、わたしは平凡な部類で、あッと驚くような色彩のシャツとか、プロが愛用するからと聞いても、そのまま求めることはしなかった。

 ゴルフ以外の、例えば碁や将棋でも、用具に凝りだしたら金はかかる。わたしは碁も将棋もアマチュアの段位を日本棋院や将棋連盟から頂いているが、碁の場合、碁石も碁盤も高級品はやはり高価である。盤は榧の柾目で、厚さは五寸五分(一寸は約三センチ)から六寸くらいまで。それに四本の脚がつくから採取後かなりの年月が経過していても、相当に重い。また地方でタイトル戦が行われるときには、その地方の愛棋家所蔵の名盤石を借りることが多いのは、石を手にしたときや盤に打ち下ろしたときの感触が、やはり気持いいからである。盤石合わせて一千万円以上という最高級の品も決して珍しくないし、さらに江戸時代に将軍が使用したという歴史のある品なら、もっと高価になる。むろん、ゲームとしての碁は、手書きの板にプラスチックの石でも楽しめる。また、厚さ1・5センチくらいの高級品の石は、アマチュアには打ちにくいのだ。

 白の石も前は日向(宮崎県)産の蛤がよしとされていたが、今ではほとんど採れなくなっているので、メキシコ産で代用されることが多いのだ。俗にメキハマと呼ばれるが、それさえも厚みと色や模様の状態によっては高価である。

 ゴルフ用品の場合、以前はウッドについては米国ミシシッピ川の上流で採取されるパーシモンが上等品とされたが、今では、全てがメタル原料で、形状による性能向上が決め手である。わたしがゴルフに熱中したころは、1本25万円というバカな超高値のウッドセットを買ってしまったことがある。まさか、そんな値段の請求書がくるとは考えずに注文してしまったのだ。むろん、日ごろ使用していたふつうの高級品の10倍も飛ぶわけではない。ただ、プロといっしょにプレイしたときに、いいウッドですね、といわれた程度である。昨今では、それをバッグに入れてコースに出ると、キャディさんから、ありァ、いまどきウッドは珍しいですね、といわれるだけである。

 それより、会場でわたしが興味を持ったのは、パターのコーナーである。ドライバーからパターまでバッグには14本のクラブが入っているが、いうまでもなく使用回数のもっとも多いのはパターであり、過去にわたしも、買う気がないのにショップに足を入れ、つい買ってしまったパターが少くとも10本はある。アメリカ旅行のときにシスコの店で、ベン・ホーガンが設計したというパターが置いてあり、いわゆるピン型でもないし、パ
ーマーが愛用した型とは違う品だったので、つい買ってしまった。

 ゴルフ仲間とのプレイで使ったし、文壇のコンペにも何度か持参した。わたし自身が、最初からピンを使い、以後もピン型が多いせいか、このホーガン・パターはどうも球を打ったときのゆびにくる感触がにぶい気がして、今は所属クラブのロッカーに入ったままである。ただ、いいパターをたえず求めていることは確かで、フェアの会場でも、あるメーカーのパターのところで足をとめた。理由の一つは、3メートルほどのパターマットで何回か球を転がしてみると、わたしのパッティングが安定しているか否か、機械が測定してくれるからである。つまり同じ速度でパターをボールの球面に正しくきちんと当てるか否か、である。

 もちろん、いつも使用しているパターではない。パターの打球面のスイートスポットもわかっていない。そこをはずしてパットしていれば、球の転がりは悪くなる。手のひらに感ずるタッチの微妙さも感じとれない。それでもわたしは何回かパットして、その機械的数値を見た。こまかいことは省略するが、わたしのパッティングは、そういう不慣れな条件下でも、約95パーセントの正確さでヘッドがボールをとらえている、と測定されていた。手前味噌になって恐縮だが、これが日ごろ愛用しているパターならば、98パーセントくらいの数字が出たのではないか。わたしのパッティングは仲間うちではうまいことになっている。

 もちろんアマチュアのゴルフでは上手も下手もなきにひとしいのだが、先月号のこのページで、ドライバーよりもパターの方が用具として重要であるとわたしの考えをのべたのも、考えてみれば、ドライバーは飛ばないが、パットはきわどく入ってきたせいかもしれない。ゴルフ一般に通用するか否かは別で、自分の好みでパターの方が重要だといったにすぎなかったのであろう。一昔前ならニクラス、その後はトム・ワトソン、近ごろではタイガー、ミケルソンたちは、ドライバーも飛ばすし、パットもうまい。かれらは、どちらが重要かと問われても苦笑するに違いない。

三好 徹
1931年東京生まれ。読売新聞記者を経て作家に。直木賞、推理作家協会賞など受賞。社会派サスペンス、推理、歴史小説、ノンフィクション、評伝など、あらゆる分野で活躍。ゴルフ関連の翻訳本や著書も多い。日本の文壇でゴルフを最も長く愛し続けてきた作家。

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