連載コラム

三好徹-ゴルフ互苦楽ノート

パット余談

2015/11/1 22:00

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作家仲間の一人が持ってきたオリジナル・パターは家のカーペットで打つと百発百中とのことで…



 ゴルフ発祥の地はどこか。一般的には、スコットランドで羊飼いの牧童たちが作業の合い間に羊追いの杖で石ころを穴に入れる遊びが起源だった、といわれている。いや、スコットランドよりもオランダの方が早かったという説もあるし、さらには中国の「宋」の時代にもあったという説もある。現実にゴルフを楽しんでいるわたしたちにとっては、中国だろうとオランダだろうと、さして重大な問題ではない。個人的には、起源はいつでどこの地方なのか、それはどうでもいい問題なのだ。

 はっきりしているのは、ゴルフがスポーツとして認知されるようになったのは、20世紀の初頭にオリンピックの種目に採用されたときからではないだろうか。しかし、オリンピックとは間もなく縁が切れた。それは、このスポーツをする国や地方、さらには国民が限定されているからという理由だったらしい。例えばサッカーは、ボールが一球あれば多くの人(ルールならば2チームで22人だが、別にそれにこだわることなく参加できる)が楽しめる。バスケットも同じである。しかし、ゴルフは1人でもいいし、競技としてならば2人で成立する。さらに一番の問題は、サッカー競技場の敷地くらいではゴルフコースには不充分なのだ。前にゴルフ仲間といっしょに北海道へゴルフ旅行をしたとき、その話が出た。

 日本のように国土の狭い国で、現在のように18ホール限定で用地を使うのはもったいないではないか、という論である。

 では、どうすればよいか。限られた用地にいろいろな形と距離のホールが作れるのか。例えば、500ヤードのホールを土台にするなら、ティからグリーンまでの間の150ヤードと380ヤードの2ヶ所のグリーンを作れば、3ホールが作れるはずである。

 なるほどティとグリーンの場所をふやすことで1ホールを3ホール分に利用することが可能になる。基本的にそういう用地の使い方をすれば、今の18ホールを54ホールのコースにもできるのではないか。

 このアイデアを披露したのは、現代小説のほかにSFも書く作家で、ゴルフをはじめて間もなく、わたしたち(先輩グループといわれた)の仲間になった人で、必ず入るというパターも作ってきた。どういうパターかというと、シャフトをヘッドの真ん中に90度の角度に取りつけたのである。そしてグリップの真上に頭を置き、左手でグリップの端を握り、右手をその下の20センチくらいに持ってストロークするのだ。要するに、パターのシャフトが地面に斜めになっているから、ボールを打つときにどうしても狂いが生じてくる。つまりパターヘッドがボールに対して正しく当らない。それを防ぐにはこの新しい形のパターがいい、と思ったので、特別に作らせたというのである。さらに自宅のカーペットで、このパターでパットしてみた。オーバーにいえば百発百中だった。

 仲間の一人がいった。

「おれもカーペットに敷いたマットでやると、やはり百発百中さ。ところが、こうしてコースにくると、そうはいかないものな」

 すると、アイデアマンは

「それは覚悟の上さ。ともかく、きょうは実戦に使ってみようと思って持ってきた」

「どうなるか、そいつはお楽しみだね」

 聞いていたわたしは、そのパターを手にとってみた。確かに直角に取りつけてある。わたしはあえていった。せっかくのアイデアに満足している人に対して、残酷なことをいうのに少し躊躇したのだが、
「これはね、ルール違反のパターになるんだよ。つまり使えないんだ」

 といった。

「本当かよ」

「残念ながら本当なんだ。パターは最後の仕上げに使うから、誰もが考えるんだ。それにパターという用具に限らず、打ち方にもルール上の制限がある。昔、サム・スニードはボールの後方に身体を置き、パターをホールの方に押しやる形でパットした。この打ち方ならばパターフェイスが狂わずにボールに当てることができる。ただし、そのためにはシャフトがフェイスに直角である方がいい。そして打つのではなく、押しやるパットがいい。ところが、このパットの打ち方は、ボールをヒットするという原則に反している、という批評が出てきた」

「それは納得できないね。10センチのパットは誰だってヒットではなく、ヘッドをボールに押しやっているじゃないか」

「それはそうだが、かがみこんでパターヘッドをホールの方に押し出す形がNGという考え方さ。そこでスニードは右手の握り方を少しくふうして、押す形ではなく打つように見える形のパットにした。サムの形の横グリップの意味でサニー・サイド・グリップという名称がつけられたが、真似する人は出なかった」

「結果は?」

「彼は現役で82勝したが、最後の方はこの形で通した。ただし、批評家たちは、サム・スニードは通常のパットでも勝てただろうといっている。晩年来日して中村寅吉とプレイしていたが、ふつうのパットでも入れていた。つまり、パットというのは気持の問題だ、ということだ」

 わたしは考えたままをいったのだが、このときアイデア作家のスコアはよくなかった。以上の話はもう三十年以上も昔のことで、アイデア作家もあの世に逝ってしまっているのだが、先ごろタイガー・ウッズが久しぶりに試合に出て、パットで悩んでいる話をTVで知って、思い出したのである。わたし自身、コースにはあまり出なくなっているが、先ごろ同い年の往年の名手プロとラウンドしたとき、自分でも驚くほどパットが入った。パットの秘訣はどうやら無欲無心になることらしい。

三好 徹
1931年東京生まれ。読売新聞記者を経て作家に。直木賞、推理作家協会賞など受賞。社会派サスペンス、推理、歴史小説、ノンフィクション、評伝など、あらゆる分野で活躍。ゴルフ関連の翻訳本や著書も多い。日本の文壇でゴルフを最も長く愛し続けている作家。

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