連載コラム

三好徹-ゴルフ互苦楽ノート

ゴルフ好きの理由

2016/11/1 22:00

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ゴルフというスポーツには人を惹きつける魅力がある。碁、将棋、マージャンなどの勝負とは違うおもしろさだ
イラスト=松本孝志



 ゴルフ好きの人に質問して、正直な気持を聞かせていただきたい、と思う問題がある。正直な気持といったところで、じっくり考えてから答える必要があるようなものではない。

「あなたはゴルフをしながら、あるいはゴルフのあとで、もうちょっと上手になりたいものだが、何かうまい方法はないものだろうか、と思ったことは一度もありませんか」

 といわれたら答えは二通りしかない。あるかないか、である。しかし、人間同士のやりとりだから、ぶっきらぼうに「ないよ」とか「あるさ」のどちらかで会話をすませる人はそんなに多くはないだろう。あるいは、会社の上司から、得意先の接待で必要だから、ある程度はできる方がいい、といわれる場合もあるだろう。わたし自身は学生時代に経済学部だったから、友人にも商社入りしたものが多かった。だから卒業して10年も経つと、海外支店勤務になったものも多かった。一人だけ新聞社に入ったものがいたが、編集ではなくて営業だった。わたしは3月に卒業する前に、正確には11月に新聞社に入社し、わたしを含めて8人が記者として働きはじめた。8人のうち2人はすでに卒業して地方紙や週刊誌で仕事していたから、11月入社でも構わなかった。しかし、在学中のもの6人は、まだ卒業試験が残っている。それにゼミの教授に提出する卒論もあるし、出席日数の不足を理由に落第させられるかもしれない。

 それを人事部のT氏にいうと、試験のときに一週間の有給休暇を出すから心配するな、という。あとで判ったことだが、夕刊発行の計画があって入社を早めたのだった。また当時の新聞発行は駐留米軍の管理下にあったのである。

 もっとも、入社方式その他が今と違うのだ。数年あとだが、合格して入社した女性が半月で退社したこともあった。約一ヵ月間の社員研修が終ったあとに支局勤務の辞令を渡された。新聞社の場合、これは当り前の人事である。つまり、いきなり東京本社で取材の仕事をするわけではなく、地方支局へ行き、そこで警察や県庁、市役所などで取材の経験を積むのである。しかるに合格して入社した女性は、新聞社の社内が銀行のように清潔だとは予期していなかったとしても、少くとも個室をあたえられ、そこには机があって電話も自由に使えるし、さらに資料の整理を手伝ってくれるアルバイトの学生もいる…と思っていた。

 アメリカ映画によくあるが、論説委員クラスの大記者で、大統領や国務長官の会見に出て記事を書く…という新聞記者になれると彼女は思いこんでいたらしい。

 確かに、アメリカの新聞界には、そういう記者もいるし、また彼らや経済界のボスを会員とするクラブもある。わたしも、日本の大商社の支社長につれられて立派なクラブで食事をしたこともある。あるいは、ワシントンやニューヨークのクラブには、服装についてもきびしいルールのあるところも現実に存在するのだ。ゴルフの世界でオーガスタ・ナショナル・ゴルフ場は超一流のコースであり、かつその会員になるのはきわめて難しいのだ。前に作家としては先輩になる城山三郎さんから、オーガスタのメンバーになっている日本の財界人の紹介で、あのコースでプレイした、と聞いたことがあった。

 あのコースの会員は三百名に限られており、かつ新入会員を迎えるときは、全会員の一致が必要だ、といわれている。といっても、そういわれているだけであって、会則が公表されたことはない。また会員でない人のプレイは、会員の同伴が必要だ、ともいわれている。だからわたしは、城山さんに、そのときは誰か財界人(会員になっている)といっしょだったのか、と聞いたのだ。しかし、そうではない、という答えだった。

 オーガスタがどういう形で会員を決めているのかは今もって不明であるが、アフリカ系の女性が会員になったときに新聞に大きく出ていた。オーガスタのある州はジョージア州であり、アトランタで小型機に乗り変えて行くのが普通である。ただし、春の試合の前後には臨時便が出るからさほど不便ではないが、そうでないときにオーガスタに行くのはかなり大変なのだ。もっとも近い大都市がアトランタであっても、オーガスタという町は人口3万人の小さな町なのだ。わたしが初めて取材で行ったときは、マスターズのときではなかったから、空港もガランとしていた。

 はっきりしているのは、ゴルフというスポーツには人を惹きつける魅力があることだ。またスポーツというものは、多少とも体力を必要とする。寝たきりの人には無理である。カートを利用する場合でも、ホールの移動には歩くことが多いし、クラブを振ることだって体力が必要である。碁も将棋もおもしろい。あるいは、若い時マージャンで徹夜したことは何度もあった。そういう勝った負けたのおもしろさとは別のおもしろさがゴルフにはある。

 碁や将棋の場合は、勝敗を決するのは棋力である。日本にはこの二つのゲームのプロが存在する。誰もがプロになれるわけではなくて、プロたちの組織に入るには、第一に実力がなければ話にならない。いずれも新聞社やテレビ局の主催する棋戦があって、双方とも江戸時代からプロの組織があった。最高位には「名人」とか「棋聖」の名称があたえられ、高額の賞金も出る。

 わたしは、この二つのゲームには中学生のころから熱中して母親から叱られることが多かった。今の子どもがパソコンのゲームに熱中するようなものだが、勝負ごとというか賭けごとの好き嫌いは、どうやら遺伝によるものではあるまいか。そして、ゴルフが好きであるのも、そのせいなのだ、と思っているのだが…。

三好 徹
1931年東京生まれ。読売新聞記者を経て作家に。直木賞、推理作家協会賞など受賞。社会派サスペンス、推理、歴史小説、ノンフィクション、評伝など、あらゆる分野で活躍。ゴルフ関連の翻訳本や著書も多い。日本の文壇でゴルフを最も長く愛し続けている作家。

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