打席の奥からダッシュしながら打つ。むずかしい練習をしたあとに、普通にボールを打つと簡単に感じる。簡単だと練習が自然と楽しいものに変わる。これぞ、練習嫌い克服のカギだ!
[編集部]練習は、やっぱりやらないとうまくならないもんですか?
武井 練習は大事です。ただ、練習は実戦に結びつかないと意味がないですよね。
――そうですね。上手な人は、目標や球筋など本番を想定して打つっていいますもんね。
武井 いや。ボクがいいたいのは、それじゃないんです。練習のせいで、本番でのパフォーマンスが下がってしまうような原因をつくらないように気をつけてほしいんです。
――パフォーマンスって練習で上げるもので、やればやるほど上がるもんじゃないですか?
武井 たしかにそうです。ただ、やりすぎるとケガをする場合がありますよね。これはゴルフだけでなくすべてのスポーツにおいて最悪の惨事ですよ。うまくなろうとして練習したのに、ケガのせいで「本番で力が出せない」「調子が悪くなった」っていうのは、すごくもったいないことです。
――武井さんもケガで、そういう経験をしたことがあるんですか?
武井 いいえ。武井式の練習やトレーニングは、鍛えることより治すことがメイン。たとえば24時間中6時間トレーニングをしたら、残りの18時間をどう回復するかに重点を置いていますから。だからボクは、いつも本番が絶好調でした。
――つまり本番に悪影響が出るほど練習をするなってことですか?
武井 それも違います。ゴルフは新しい技術や同じ動きを身につけようとしたら、ある程度ボールをたくさん打って、反復しなければいけないスポーツですから。
――たくさん打ったほうがいいけど、打ちすぎちゃいけないって、じゃあどうすればいいんですか?
武井 簡単ですよ。「たくさん打っても“疲れない”」をテーマに練習すればいい。いつもと同じ球数と練習をしたけど、今日はなんだかいつもより疲れていない、と感じることを成果にするんです。
――たくさん打てば疲れるのが普通ですけど、そんな打ち方があるんですか?
武井 ゴルフクラブっていうのは、そんなに重いものを振っているわけではないんですよ。どれも1キロ以下でしょ。ドライバーなら300グラム前後ですが、これをひとつの筋肉を使って振ると300グラム分の負担がかかって疲れてしまう。でも10カ所の筋肉に分散させて振れば、ひとつの筋肉にかかる負担は30グラムですむ。そうするとラクに振れるから疲れません。
――たくさんの筋肉を使うようにすればいいんですね?
武井 いや、むしろ逆の発想で、なるべく使わない意識をもってください。ボクは逆立ちが得意ですが、それと同じ理屈ですよ。
――武井さんの見事な逆立ちって、鍛えられた筋肉やバランス感覚があってのことでしょ。
武井 全然違います。だって、みんな足で立っているけど、足に力を入れている意識がありますか?
――いいえ。そういう意識はまったくありませんが……。
武井 力もちじゃない人でも普通に両足で立っていますよね。逆立ちはそれが逆さまになっただけで、むずかしいことではない。力を入れて両腕で支えようとか、足を勢いよく上げようとか余計なことはせず、座っている状態から立つときと同じ感覚で、そ?っと立てばいいんです。
――ということは、腕にはまったく力を入れてないんですか?
武井 そのとおり。部分的にすごく力を入れているところはゼロだからずっと腕で立っていられる。これが逆立ちの極意です。これはプロのスイングにもいえることですよ。
――たしかに! プロに「スイング中はカラダのどこに力を入れて打ちますか?」と聞くとほぼ100%の人が「どことか具体的なイメージはもっていない」っていうんですよね。
武井 でしょ。なるべく筋肉を使わないで疲れずにたくさん打つ練習は、いいスイングをマスターするための近道にもなるんですよ。
――今月も目からウロコですね。ただ、「根本的に練習が嫌い」っていう人もいますよね。
武井 そういう人は、一番イヤな練習を攻め込んでやるといいですよ。
――一番イヤかぁ。ボクならハーフスイングとか片手打ちとかかなぁ。地味だし、全然うまく当たらない。
武井 走り高跳びを例にあげると、自己ベストが1メートル80センチなら練習はいくつかはじめます? 1メートル50くらいですか? それを2メートルからはじめるんですよ。
――それだと、当然失敗しますよね。ベストより20センチも高いのだから。
武井 ええ。確実にバーを落とすでしょうね。でもそれでいいんです。そのあとに自己ベストまで下げて跳んでみてください。スーパー低く感じるから、ベストなはずなのにラクに感じてしょうがない。むずかしいものをやったあとは、ほかがやさしく簡単に思えるものなんですよ。
――たしかに。普通に打つ練習も、片手打ちに比べたら当てるのが簡単すぎて楽しく感じそうです。
武井 やることが極端にむずかしければむずかしいほど、そのあとはなにをやっても簡単に思えるんです。
――その極端にむずかしい練習法で、武井さんのオススメはありますか?
武井 そうですね。これはボクも実際にやっていましたが、打席の一番奥から走りながら打つ! しかもボールを見ないでね。これも、疲れないように打てたら完ぺきです。
――確実に空振りしますよね……。
武井 いや、ティアップしたボールなら意外と当たりますよ。
――それをやったあとなら、なにをやっても簡単に打てそうです。
武井 極端にむずかしいことをやる。筋肉なら使うより極端に使わない。
「極端」っていうのは上達のキーワードのひとつでもあるんですよ!
次回――難ホールの攻略法はOB杭とマジでケンカしろ!
●武井壮(たけい・そう)――1973年生まれ、39歳。陸上「十種競技」の元日本チャンピオン。98年から4年間アメリカにゴルフ留学し、USGAハンデ1.3を取得。08年にはプロゴルファー塚田好宣が全英オープンに出場する際にはトレーナーを務めた。全生物の頂点「百獣の王」を目指して日夜トレーニングにはげむ、あらゆる面で地上最強のゴルファー。メディアでは、フジテレビ「笑っていいとも」、TBSラジオ「たまむすび」、TOKYO MX「ニッポン・ダンディ」の月曜レギュラーとして出演中。
・オフィシャルサイト gogotakei.com/
・オフィシャルブログ ameblo.jp/zenkaiman/
・ツイッターアカウント @sosotakei
※武井壮の衣装は、ゴルフ場の許可をとったうえで、メディア出演用の衣装で撮影しています。
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