経験で学んだ攻め方のコツ
前回予告したように、難しいコースでスコアをまとめるにはどうすればよいか。その説明から、今回は始めよう。
1997年、日本での第4戦目『PGAフィランスロピートーナメント』がボクの通算24勝目になった。優勝スコアは4日間72ホールで17アンダー。パー71だからかなりのハイスコアだ。2位との9打差は自己初の大差優勝。コース設定が難しくなったことが最大の勝因だった。
開催コースのメイプルポイントGCの設計はピート・ダイ。彼のコースは米ツアーではおなじみで、ボクには経験値というアドバンテージがあった。これが第1のポイント。第2のポイントは日ごとに硬くなったグリーン面が、ボクのアドバンテージをさらに大きくしてくれたことだった。
ここでの「経験値」とは、たくさんプレーして覚えた「攻め方のコツ」ともいえる。知識として知っておくことだけでも、スコアメイクに役立つものだと思うので、しっかり説明していきたい。
コースの難しさにはいろいろな要素がある。長さという距離の難しさもあるが、最大のポイントはグリーンの難度だ。これにはふたつの意味がある。
ひとつ目はグリーンそのものの難しさ。グリーン面に大きな傾斜や段差、マウンドなどがあると「乗っただけ」では厳しいラインが残りやすい。大きく切れたり、速い下りになったり、段差越えになるからだ。
こうなると1パットで入る確率は大幅に下がる。入れにいってオーバーし、2パット目に距離を残すと3パットのピンチに追い込まれる。だから「距離感を合わせて2パットでしのごう」という守りのパットにならざるを得ない。バーディの可能性は非常に低く、ボギーになる危険性が高まる、ネガティブなプレーになってしまう。
このパターンを避けるには、カップを攻められるエリアに乗せる必要がある。大きな傾斜や段差がラインにかからない区域に打球を運ぶことだ。これなら「1パットを狙ってカップを攻められ、外れても2パットで収められる」意識でプレーできる。
このように「1パットを狙って2パットで上がれる」ことと「なんとか2パットで切り抜ける」ことの差はすごく大きい。当たり前のことなんだけどね。
では、どうすればよいか。もちろん「いいところに乗せる」ことが大事になる。理想は「ピンに絡める」ことだ
けど、それを狙ってもいつもピンにつくわけじゃない。いい感じで打てても距離の誤差が出たり、風に流されたりする。なんらかの誤差が出るのがショットの実態だからだ。
出てほしくないショットの誤差を抑える方法はふたつある。ひとつはショットの距離を短くすること。たとえばウエッジで普通に打てる短いショットなら、ピンに絡む確率を高められる。ということは、その前のショット、パー4なら1打目を「できるだけ飛ばそう」とすることになる。だが、これが新たな問題を呼び起こす。飛ばしにかかるほどコントロールのミスが出やすくなる。そして、難しいコースでこのミスが出ると、グリーンを狙うショットのミスも大きくなるんだ。
前述した「グリーンの難度にはふたつの意味がある」のふたつ目がこの問題にかかわってくる。難しいコースは、ハザードなどでグリーン周りの守りが堅固になっている。たとえばあるパー4の2打目でバンカーのすぐ先のピンを狙う場合。ホールの右側からはバンカー越えになり、それを避けてオーバー目に打つと強い下りのパットが残る。手前もダメ、奥もダメという位置にピンが切られていることになる。
ただ、きちんとつくられているホールは「どこから打っても難しい」ということはない。「ここに打ってくれば、次は攻められる」というエリアが必ずある。「右はダメだけど、左サイドからはバンカーを避けられる。ピンの手前側を狙っていける」というルートがある。これなら1打目は左サイド狙いになる。そしてそこで飛ばしにかかるとコントロールのミスが起きやすくなる。右に打ってしまったり、左のラフに飛ばしたりしてしまうんだ。
刻むゴルフがリスクを減らす
こうなると次のショットが極端に難しくなる。よいショットを打ってもバーディにつながらず、ボギーのピンチを招く。そういう状態に追い込まれる危険性が高くなる。
とくにやっかいなのがラフからのショットだ。どこに、どれだけ飛ぶかの計算ができないから、スイング時のプレッシャーも強く受けるようになる。
そういうリスクを極力低下させる最善の方法が刻みである。
●1打目はフェアウェイキープを最優先して、
ドライバー以外の番手でレイアップする
ティショットのベストは狙ったサイドのフェアウェイに打つこと。セカンドベストはサイドが違ってもフェアウェイに運ぶこと。これならグリーン面のそれほど悪くないエリアに乗せることもできるから、パーが確保できる。
もちろんレイアップするのだから飛距離は犠牲になる。それでもフェアウェイを捉えておくほうが、スコア面ではかなり有利になる。実際にボクは『PGAフィランスロピートーナメント』では、こういう攻め方をよくやった。
●1打目がドライバーなら2打目はウエッジの距離。
そこで刻んで2打目を8番アイアンでフェアウェイから打つ。
この攻め方はグリーンが固くなるほど重要になる。セカンドショットをグリーン面に止められる可能性が、ラフからは大きく下がるからだ。
米ツアーではこうした攻め方を求められることが多い。「ラフでも飛ばしておいたほうが有利」というプレーは通用しないんだ。そこで戦い続ければ、自然と刻めるようになる。
アマチュアを含めて、日本のゴルファーが刻みを嫌う傾向があるのも、こういうコースでの経験値が少ないからだと思う。ボク自身も刻むことには抵抗感をもっていた。フルスイングしてかっ飛ばしていくことで闘志が増し、ボギーを叩いてもそれ以上のバーディで盛り返す、というプレースタイルが好きだった。
でも難しいコースでプレーを重ねるほど、レイアップの必要性がわかってくる。その効果で普通に刻む決断ができるようになった。
練習ラウンドで攻め方を見極める
レイアップをスムーズに実行するために大切だったのが練習ラウンドだ。初めてのコースでは、練習ラウンドでホールごとの攻め方をしっかり見極めることに神経を使った。芝の特徴はどうか。ラフに入れたときは飛ばなくなるのか、フライヤーが出るのか。フェアウェイやグリーンの硬さはどうか。風はどういうふうに吹くことが多いのか…。
そうした要素を勘案しながら、1ホールずつの攻め方を練習ラウンドで決めていった。その結果「ここは刻んでいこう」と決めてしまう。そしてその攻め方を貫いた。
こうすると、その場の感情に左右されなくなる。調子が悪いときでもよいときでも、感情に流されるとショットの選択を誤るケースが多くなる。ドライバーで行くべきところで刻んだり、刻むべきところでドライバーを振り回したり……。
こういう選択がよい結果につながることはまずない。手痛いミスにつながる危険性がずっと高まるのだ。そうやってスコアを失うと、取り返すことができなくなる。そういうことも経験的にわかってきた。
また、練習ラウンドではアプローチのチェックも大切だ。
グリーンの形状を見て、数カ所のピン・ポジションを予想。そこに寄せるには、どこからどんな球筋を打つべきかを調べておく。
グリーン面の段差や傾斜、起伏が大きいときは予想外のところにボールが流れていくことがある。巧みに打ったピッチショットがまったくピンに寄らないし、ピンから離れていくこともある。試合でこういうことが起きると、平常心に戻ることが難しくなり、さらにストロークを失う危険性が高くなる。そのリスクも、グリーンが固くなるほど増えていくのだ。少なくともグリーン近くからのアプローチで「想定外」が起きないように、ていねいにチェックしておくことを心がけるべきだと思う。
また、アプローチをチェックしておくと、ウエッジのショットをピンに絡めるイメージが鮮明に出てくる場合もある。その点でも重要なことだ。
一般の人には練習ラウンドはまったく縁がない。毎回のラウンドがぶっつけ本番の試合と同じだから、刻みの決断もアプローチの狙い方を変えることも、簡単にはできないと思う。でも、いい感じで打ったのにスコアがつくれないときは「狙い方を変える」というチャレンジをしてみてほしい。「新しい狙い方にトライする」と考えて前向きにやってほしいと思う。
シード権を確保しても変わらなかった決意
こうしたことを含めて、米ツアーへのチャレンジで得たものの大きさを再認識した。そして日本で2試合連続優勝できたことも、精神的にはプラスになった。
その効果なのかどうか。その後に舞い戻った米ツアーで思わぬことが起きた。
『ヨネックスオープン広島』で優勝してすぐに全英オープンに出た。でもこの試合は残念ながら体調不良で棄権することになった。〝長い間、日米のツアーで戦い続けてきた疲労感が、体を蝕み始めてきた〟そんな危機感をもった。
その後、8月に入ってから米ツアーに復帰した。日本でしっかり休養し、第4週の『ワールドシリーズ』までに3連戦して米ツアーに区切りをつけるつもりでいた。
その最初の試合が『ビュイックオープン』だった。
初日は6バーディ、1ボギーの67。通算5アンダーで3位タイのスタートとなった。「ほぼ完ぺきなゴルフができた」と思った。4つあるパー5のうち3ホールでバーディを獲った。190ヤード前後の長いパー3でも2バーディ。もうひとつのバーディは420ヤードのパー4だった。
2日目もバーディは4つ獲れたが、ボギーが3つに増えてしまった。通算6アンダーで12位タイ。ショットの調子が前日よりも落ちたが、パットがよく入ってなんとか上位に踏みとどまれた。久々にいい気分で予選ラウンドを終えることができた。
3日目はバーディが先行した。1番、7番、9番、10番と4つを奪取。ボギーはふたつでこの日2アンダー。通算8アンダーで7位タイに上がった。この段階でトップはアーニー・エルス。13アンダーで5打差だったが、ボクは「明日は頭をとる」と宣言した。米ツアーでは珍しく「イケる」という気持ちになっていた。
そして最終日。この日はいきなりダボがきた。1番パー5でバーディを獲り損ねたあとの2番パー4。2打目を左ラフに外し、その後もズルズルとミスを続けたのだ。3オン3パット。だが悪いものがここで全部出た。その後はノーボギーで5つのバーディを重ねた。
5バーディ、1ダボの69。優勝したビジェイ・シンとは4打差ながら、2位タイで試合を終えた。
これはボクのベスト記録。それまでは6位タイだった。初のベスト5入りだったんだ。この試合の2位タイは6人いて、賞金は8万3375ドル。これも1試合当たりの最高獲得額だった。その結果、来シーズンのシード権をほぼ確保することができた。
だが、ボクの決意は変わらなかった。
「米ツアーからは撤退する」
ベスト記録を残した試合後のインタビューでも、そう明言したのだった。
(次号に続く)
たくさんプレーして覚えた攻め方のコツ。その基本となるのは練習ラウンドだが、ぶっつけ本番になってしまうアマチュアは「新しい狙い方にトライする」という前向きな気持ちで、ときには狙い方を変えてみることにチャレンジしてほしい。
尾崎直道 おざき・なおみち
1956年5月18日生まれ、59歳。174cm、86kg。プロ入り8年目の1984年「静岡オープン」で初優勝。91年に賞金王に輝いたあと、93年から米ツアーに挑戦し8年連続でシード権を守る。ツアー通算32勝、賞金王2度、日本タイトル4冠。2006年から米シニアツアーに参戦。12年日本シニアツアー賞金王。14年はレギュラーとシニアの両ツアーを精力的に戦い「日本プロゴルフシニア選手権」で2年ぶりの優勝。今季も勝利をめざし両ツアーを戦う。徳島県出身。フリー。
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