デイ、ジョンソン、マキロイ、スピース。トップ4が確固たるナンバー1の座を確立すべく動き出し、そこに松山も加わる。そんな米ツアーの新シーズンの構図を舩越園子がレポートする。
トランプの影響で今季のツアーは
米ツアーはすでに2016~2017年の新シーズンが開幕している。昨季はシーズン真っ只中でリオ五輪が開催されたため、それに合わせてすべてのスケジュールが“押せ押せ”になった。3つのメジャー大会が6月と7月に行なわれ、それが終わった直後からプレーオフ4試合へ、そしてライダーカップへとなだれ込み、とにかく忙しかった。そんな昨季と比べれば、今季はスケジュールの上では少し落ち着いた1年になる。
とはいえ、今季も“NEW”はいろいろある。毎年、マスターズの優勝者予想という意味で大きな注目を集めてきた春先の世界選手権シリーズ・キャデラック選手権が、今季からはメキシコ選手権に生まれ変わる。
これは、米ツアーがあのドナルド・トランプが所有するフロリダ州マイアミのドラル・リゾートと距離を置くために行なった変化の1つだ。
トランプ氏の数々の問題発言や姿勢に賛同できないとして、今年の始めごろからゴルフ関連団体は次々に彼の所有コースを大会開催地から外すアクションを取ってきた。米ツアーもそれに追随する形で、長年の付き合いだったドラルにとうとう別れを告げた。そして、このWGC大会の新たな開催地となったのがメキシコというわけだ。
開催地の変化は他にもある。今年の全米プロは、これまでウエルスファーゴ選手権の舞台となってきたノース・カロライナ州のクエイルホローで開催されるため、ウエルスファーゴ選手権の開催コースは同州内のイーグルポイントへ移る。
さらに、ロサンゼルスの名門リビエラで開催されてきたノーザントラスト・オープンは今季からスポンサーが変わり、大会名はジェネシス・オープンになる。しかし、ノーザントラストの名前は米ツアーから消えるわけではなく、シーズンエンドのプレーオフの第1戦が従来のザ・バークレイズからザ・ノーザントラストに変わる。
こうした変化は、米ツアーが大会運営やスポンサー探しに「苦労している」「模索している」わけではなく、むしろビッグなスポンサーが次々に付いていることを示している。米ツアーのビジネスは拡大方向でうまく循環していると見ていいのだと思う。

▲16年はレギュラーシーズン未勝利の後、プレーオフに入って1勝、最終戦でも勝利し、見事フェデックスカップ総合優勝したマキロイ。あとはマスターズに勝ってグランドスラムを狙う

▲15年のマスターズと全米オープンの制覇で16年は「静か」だった印象のスピースだが、しっかり2勝している。今シーズンはメジャーを獲りに行くはずだ
開花し始めた30代、「底力あり」の20代
そんなふうに米ツアーの舞台作りは、ほぼ完璧。戦うための土台が揺らぐことはない。その舞台の上で、今季はどの選手たちが、どんな戦いを披露してくれるのか。
開幕戦のセイフウエイ・オープン(旧フライズドットコム・オープン)も今季から大会名が変わったが、新スポンサーを得た記念すべき第1回大会はタイガー・ウッズがエントリーしたことで世界中の注目を集めた。
結局、開幕3日前にウッズがドタキャンするという最悪の展開になったが、昨年大会でも優勝争いをしたブレンダン・スチールが今年は見事に勝利し、最終的にはハッピーエンドになった。
ウッズのようなスーパースターは不在でも、大会を盛り上げることのできる選手は、今の米ツアーにはたくさんいる。スチールは見事に、それを実証したといえるだろう。
スチールは現在33歳。大学ゴルフ部を経てプロ転向し、草の根のミニツアーや下部ツアー(ウエブドットコムツアー)で数年間の下積み生活をし、それから米ツアーへ格上げされて、さらに数年間腕を磨いてきた。
米ツアーの選手層は幅も深さも増しているが、その核をなしているのは、この30歳前後のスチール世代だ。昨季の終盤ごろから目立って本格的な活躍を見せ始めたスチールやライアン・ムーア、ケビン・チャペル、ラッセル・ノックスといった面々は、みな同世代。
そして、スチール世代より一回り若い20代は、優れたジュニア教育やカレッジ教育の賜物であり、プロとしてのキャリアや経験年数は短いけれど、すでに豊富な試合経験と底力を身に付けている。ライダーカップで大活躍したパトリック・リード、マレーシアで開催されたCIMBクラシックを2連覇したジャスティン・トーマスは、今季目が離せない選手の筆頭だ。静かに勢いを増しているのはスマイリー・カウフマンやキム・シウ。どの選手も“爆発寸前”の予感がする。
王座の椅子取りゲーム。抜け出すのは誰か?
若手と中堅が大いなる成長を見せるであろう今季、すでに彼らの一歩先を行っているトッププレーヤーたちは、ポスト・タイガーの座に君臨するための“椅子取りゲーム”を続けることになる。
若き大物がそろってはいるものの、かつてのウッズのような圧倒的な存在感は、まだ誰も備えてはいない。現在の世界ナンバー1、ジェイソン・デイは、まだメジャー1勝。この勝利数を増やさなければ、圧倒的王者にはなれないだろう。
しかし、傷病に悩まされ続けているデイの肉体が、果たして本物の王者への道を進ませてくれるのかどうか。昨季はプレーオフ4戦のうちの最後の2試合をどちらも棄権。その後に出場予定だったオーストラリアンオープンもワールドカップも、母親の母国フィリピンで開かれるチャリティ大会も、すべて背中痛の悪化のために出場を取りやめた。
故障とどう向き合い、付き合っていくか。スター選手の生活と私生活をいかに両立させていくか。その2つのテーマが共通項となっているデイとウッズは、“親友”として頻繁にメールや電話を交わし合っている様子。だが、故障による長期戦線離脱という点だけは2人の共通項になってほしくない。

▲春先に2週連続優勝、5月にも1勝した昨シーズのデイは、終盤戦で棄権が続いたが、世界ランキングはトップを死守。今年も強いデイが見られるだろう
パワーと実力の持ち主でありながら、なかなかメジャー大会で優勝できなかったダスティン・ジョンソンは、昨年の全米オープンを制し、ついにメジャーチャンプになったが、彼にとってそれはゴールではない。「世界ナンバー1になるのが僕の夢」というジョンソンは、まだ本物の王者へのスタートラインに立ったばかり。今季は本格的に走り出す年になる。
昨季はメジャーで勝つことができなかったジョーダン・スピースも今季はメジャー勝利数を「2」から「3」へ増やそうと躍起になる。メジャー勝利数「4」と先を行っているローリー・マキロイには、今年こそはマスターズ初優勝を成し遂げてキャリア・グランドスラムを達成してほしい。
五輪も終わり、ライダーカップも終わり、米ツアーのスケジュールがいつも通りに戻る今季。トッププレーヤーにはもちろんのこと、どの選手たちにも、自分自身の立ち位置をさらに一歩、いや二歩三歩、向上させるための1年にしてほしい。

▲昨シーズンはプレーオフ最終戦でこそマキロイに敗れ、総合優勝は果たせなかったが、全米オープンでメジャー初優勝。今シーズンもジョンソンの勢いは止まらなそうだ
アジアに集まる注目。松山は今季早くも1勝
米ツアーの舵取り役を1994年から務めてきたティム・フィンチェム会長が退き、ジェイ・モナハン氏が率いていくこれからの米ツアーは、明らかにアジアに視線を向けている。
開幕シリーズにはマレーシアのCIMBクラシック、上海のHSBCチャンピオンズの2連戦が今季も開催されたが、来季からは韓国で新大会が創設され、アジア3連戦が実現される。そうなれば、欧米のトッププレーヤーたちも、もっとアジアに足を運ぶことになるだろう。米ツアーの視線のさらに先には、明らかに2020年の東京五輪がある。
日本に対する興味関心は確実に高まり、ビジネスチャンスを探る動きは現実的に始まっている。米ツアーの日本における拠点も近々に創設される見通しで、そうなれば米ツアーと日本ツアーの共催大会も創設される可能性は高い。
そんな動きの中で、松山英樹が開幕早々からCIMBクラシックで2位になり、続くHSBCチャンピオンズではぶっちぎりで圧勝、見事、米ツアー3勝目を挙げた。故障で戦線離脱していた石川遼も見事な復活ぶりを見せているし、世界のゴルフ界の注目の的といっても過言ではない。
松山は米ツアー初優勝のメモリアル・トーナメントも、2勝目となったフェニックス・オープンも、どちらも自身の手ごたえはよくない状態の中で勝利し、そんな状況下で勝てたのは「たまたまです」といっている。確かにその言葉通り、昨季の松山は「調子はよくない」と肩を落としているときでさえ、優勝争いや上位入りは毎週のようにしていたのだから、ショットやパットの調子が上がったHSBCでの勝利で、今季さらに勝ち星を上げる確率は、自ずと高くなるだろう。
もちろん、技術上の絶好調がメンタル面に別の影響をもたらすことはあるだろう。しかし、すでに大きな舞台を何度も踏み、大注目を浴びる状況を何度もくぐり抜けてきた松山なら、心技体すべてをコントロールし切って、今季はメジャー大会でも手に汗握る優勝争いを見せてくれるに違いない。ショット、パット、メンタル面が噛み合えば、松山のメジャー優勝はきわめて現実的だ。
石川は昨季の大半を米ツアーから離れていた分、今季は「米ツアーで戦うこと」自体に対するリハビリが必要になるだろう。だが、いい意味で「転んでもタダでは起きない」石川のことだから、米ツアーを離れていたからこそ得ることのできた「何か」をすでに持っていると思う。
日本での復活早々のKBCオーガスタでの優勝、米ツアーへの復帰戦となったCIMBクラシックでのトップ10入りが、それを如実に物語っている。今季こそ、米ツアー初優勝も夢ではない。
松山にも石川にも大いなる興味と期待が寄せられている今季。日本の選手として、アジアの選手として、米ツアーで、いや世界の舞台で力を出し切ってほしい。
そして、17年の米ツアーは、実力者たちが着実に上へ上へと上って行く、そんな「静」の中に「動」を見る1年になりそうだ。

▲日本のメジャー、日本オープンを制した後、PGAツアー3勝目をすぐに達成。今シーズンは世界ランキングの最上位、そして日本人初のメジャー優勝を期待できる
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