連載コラム

三好徹-ゴルフ互苦楽ノート

人為的なランクの疑問

2013/11/18 21:00

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 オリンピックが再び東京へやってくる。人間でもないのに「やってくる」はおかしな言い方だが、単なるスポーツ大会ではなくて、多くの人が動くからである。現在のオリンピックは、フランスの教育家だったクーベルタン男爵が創立した国際オリンピック委員会IOCによって4年ごとに開催されている。歴史をたどると古代オリンピックの第1回大会は、西暦の紀元前776年に行われた。

 はじめは、長い距離を走る1日だけの競技だった。というと、マラソンのことを誰もが思いうかべるが、マラソンの語源になったギリシア対ペルシアのマラトンの戦いは、紀元前490年のことだったから、古代オリンピックとは関係がないように思える。しかし、クーベルタンはマラトンの戦いでギリシア軍が勝ったことをアテネに知らせるために兵士が走った史実を利用した。つまりその距離42・195キロを再興するオリンピックの目玉にするマラソンに用いたのだ。どうしてその距離なのか、といわれたときに誰もが納得する説明になる。

 マラトンMarathonはフランス語やスペイン語の発音では、hがサイレントになるからマラトンになるが、英語読みならマラソンである。国際会議での公用語が英、仏語になっているのは、第一次世界大戦後に結成された国際連盟でそのように定められたからなのである。そういう講釈はさておき、1日だけの長距離走のほかに宗教儀式や他の競技(ボクシング、レスリング、騎馬競走など)も加わって7日間の大会になった。また、その期間中は各都市間の戦闘もやらないことになった。つまりオリンピックは平和の祭典だというわけである。

 現実のオリンピックは、政治絡みである。モスクワのオリンピックで、アメリカや日本が参加しなかったのは、ロシアのアフガン侵攻を非難していたからだった。また、次にロサンゼルス大会をロシアや同盟国がボイコットしたのも、その“お返し”である。どちらの損が大きかったかはわからないが、金を儲け損なった点では、ロシアの損が大きかっただろう。見物客の使うドルはその開催地には大きなプラスになる。開催を希望する都市が大騒ぎの招致活動をするのは、それだけの理由がある。東京が何十億円、いや何百億円も使ったというのも、大きな経済効果が約束されているからだろう。

 似たようなことは競技種目についてもいえる。レスリングが次のブラジル大会ではずされる種目になりそうだということで、関係団体は猛運動を展開した。それが効を奏して復活したが、野球はダメだった。それで野球の関係者は、競技人口の多さや人気も含めて、はるかに下位のゴルフが採用されているのはおかしいじゃないか、と文句をいうらしい。

 日本やアメリカでは、確かにその通りだろう。野球の日本シリーズとなれば、TVも新聞も大きく報道するが、ゴルフの日本オープンや日本シリーズは、さほど大きく報道されることはない。それは何も日本ばかりではない。アメリカでも、全米オープンやマスターズの結果が大リーグのワールドシリーズやアメフトよりも大きなスペースになることはない。とはいえ、ゴルフは20世紀はじめのパリ・オリンピックでは正式種目だったのだ。今のフランスには、有望といわれるゴルファーは男女ともいない。何年か前の全英オープンの最終ホールで、ダボでも勝てたフランス人プロ・バンデベルデがトリプルを叩いてプレイオフになり、それにも負けた。しかし、1930年代のことだが、全米女子オープンに勝ったのはフランス人の女性アマチュアだった。ボビイ・ジョーンズが年間グランドスラムを達成したのは1930年だったから、そのあとにアメリカやイギリスではゴルフが盛んになった。ヒーローやヒロインが出ると、プレイする人もふえる。タイガー・ウッズが勝ちはじめたあと、競技人口、ことに若年層のゴルファーが急増した。タイガーになれるわけではないが、彼がゴルフ人口を拡大したのは事実である。

 ゴルフの国際大会としては、1957年のカナダカップで日本の中村寅吉と小野光一が霞ヶ関CCで団体として、また個人で中村が優勝したのが歴史的快挙とされている。アメリカ代表のサム・スニードやジミー・デマレー(マスターズ3勝)や全英オープン3勝(のちに2勝)のピーター・トムソン、アメリカのツアーで勝っているブルース・クランプトンのオーストラリアに勝てるとは考えられなかったのだが、日本チームは2位のアメリカより9打少い557打で、中村は4日間274打で2位のスニードの281打に勝った。

 中村もスニードも故人になっているが、スニードと同じスコアで個人2位タイになったのが、南ア代表の若きゲイリー・プレーヤーである。いまの国際大会としては、10月初めに行われたプレジデンツ・カップが日本のファンには身近な感じだが、それは石川遼が2回連続、そして今回は松山英樹が選手として丸山茂樹がサブ・キャプテンとして出たからだった。丸山は、国際チーム唯一の勝利だった大会で5ポイントを獲得し、最優秀選手に選ばれた。また丸山は伊沢利光とのコンビでカナダカップの後身のワールドカップでF・ミケルソン、D・トムズのアメリカ組に勝って優勝した。何といっても米国ツアーで3勝している。そういう国際的なキャリアはやはりモノをいう。

 個人プレイが原則のゴルフでチーム戦という方式は、個人的には納得しかねるが、国際的な合意だから致し方ない。そして4日間の日程の中で3日間は2人で1組となるチームプレーをする以上、松山のほかに石川を選んでほしかった。すでに2回出ているし、タイガーも「石川の名前は知っていた。いっしょにラウンドして、彼の実力を認識した」とそのときは感想を語っていた。当時はほとんど無名だった石川を主将指名で選んだG・ノーマンは眼力があったのだ。欧州以外の国際選抜をどうやってまとめるのか、それがキイ・ポイントだと思うが、ニック・プライスは経験不足だった。指名したデ・ヨングは70位、石川は世界ランクが下でも、実力は上だったろう。松山とのコンビを考えれば、チームのために石川を指名すべきだった。


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