連載コラム

三好徹-ゴルフ互苦楽ノート

年をとるのは当然でも

2014/5/15 21:00

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パーマーやニクラスがマスターズに出なくなったのももしかしたら……



 ゴルフをする人が、自分に備わっている能力を充分に発揮できる期間はどれくらいだろうか、とふと思うことがある。ゴルフを職業にするプロの場合と趣味にしているわたしたちアマチュアとは、おそらく相当の差があるに違いない。アマチュアにもいろいろあって、スポーツ好きで子どものころから社会人になるまで、ランニングやテニスなどを続けた人と、わたしのようにスポーツらしきものは何もしなかった人とでは、条件が同じではない。それは、何であれスポーツを続けてきた人の場合は、すぐに上達するから長い期間ゴルフを楽しむことが可能だが、そういう体験のなかった人は、能力を充分に発揮するとかしないとか、それを考えるのも無意味に近い。従って設問自体がマトはずれだよ、といわれるかもしれない。

 そうはいっても、若いころにはスポーツ体験がほとんどなかったのに、ゴルフをする人の全盛期間はどれくらいなのか、と考えるようになったのは、我ながら不思議である。しかし、ゴルフをしていて声には出さないものの、心の中で(年はとりたくないものだな)と呟くことが多くなってきたせいもある。わたしの場合、ゴルフ仲間というのは、学生時代や、文壇のゴルフ好きが主たるもので、加入しているクラブのメンバーとはほとんどプレイしない。本当は、同じクラブに親しい仲間のいる方がプレイも増えて上達にはよい、とわかっているのだが、実は、ある程度の覚悟をしてクラブの競技に出たとき、こちらの仕事がわかると、プレイをしながらいろいろ質問されることが多かったのに閉口したのである。

 会社勤めとか自家営業の仕事ならそうはならないだろうが、小説家だとわかると、他の職業とは違って、原稿はいつ書くのか、夜型が多いというが、あなたもそうですかとか、あるいはどこであのストーリイのヒントを得たのかとか、あの短編は一晩で書いたのかなど、歩きながら、あるいは食事のときに際限なく聞かれた。それは、小説家がありふれた仕事ではないからであろう。

 聞く人は初めて同伴するから、右のような質問をするわけだが、組合わせが変っても同じことを聞かれると、もううんざりである。といって、ぶっきらぼうに応答する非礼は許されない。結局は、わずらわしいからクラブ競技に出るのはやめることにした。ゴルフには気分転換という効用もあるのだが、そんな状況では、逆に疲れるだけになってきた。

 もともと、ゴルフをはじめたとき、その前までとは違って、ゴルフというスポーツの奥深さがわかってきて、長く続けるだろうなと予感した。その意味では、十代の中ごろからはじめた囲碁と同じく、長いつきあいになったのである。わたしに囲碁を教えたのは父親だった。受験勉強をしなければならない時にも打ったものだから、母親に叱られた。

 趣味としては、ゴルフも碁もわたしには同程度の比重がある。ただし、アマチュアとしては碁の方が技術的には上である。三十代のころは今より強かった、と自分では思っている。それが独りよがりではない証拠として、プロの最高クラス、つまり名人や本因坊というタイトル保持のプロ棋士に打ってもらった結果によって立証できる。ゴルフのハンデキャップと同じく、碁は段位によってランクが表示される。プロの場合は、最下位の初段から9段まであり、そのほかに七大タイトルがある。アマチュアにも段位はあって、初段から7段までである。日本棋院あるいは関西棋院から免状を貰えるのだ。ただし、同じ段であっても、専門棋士とアマチュアの段は中味が異なる。ゴルフの場合、ハンデキャップは、プロには使われない。

 わたしはアマの5段を頂いているが、これはゴルフのハンデでいうとハンデ5か6くらいに相当する。ゴルフはスコアカードによってハンデキャップが定められるが、碁の場合スコアカードに相当するものはない。その代りに、プロ棋士に対局してもらい、その結果によって判定してもらう。自分で省みると、もっとも強かったのは40歳前後だった。プロのタイトル保持者に打ってもらい、五子の置き碁なら何度か勝った。しかし、今では勝てなくなっている。それだけ弱くなったのだ。とはいえ、置き石を五子から六子にふやせば、けっこういい勝負になる。

 しかるに、ゴルフはもう駄目である。ハンデ16のころにはアマプロ戦に招待されても、ある程度は楽しめた。86でプレイできれば、パー72なら2アンダーになる。わたしが初めてセントアンドリュースのオールドコースでプレイしたのは1991年で、某社のアマプロで前年の全米プロに勝ったウエイン・グラディと同組でラウンドした。そのスコアは98だった。ルールとしてはチームの誰かがバーディかパーなら、それ以下の人はプレイしなくてよいのだが、わたしはグラディに頼んで各ホールともカップインまで打たせてもらった。

 現在は、もしプレイできれば110は叩くだろう。何しろホームコースでさえ100を切るのが難しくなっている。年をとってきた以上、それは当然だろう。A・パーマーがマスターズに出るのをやめたのは、1番ホールのフェアウェイ右のバンカーを第1打が越えなくなったからだった。年はとりたくないものだ、と彼も感じたに違いない。パーマーより10歳若いJ・ニクラスが出場しなくなったのも、飛ばし屋ナンバーワンだった往時を知るファンの前に、衰えた姿をさらけ出したくないからではないのか。

 確かに、ニクラスのよぼよぼゴルフなんぞは見たくない。その意味では、オーガスタで大叩きするタイガーのプレイも見たくない。むろん彼はあと数年は出るだろうが、肩や膝の衰えからすると、メジャーをあと5勝してニクラスの18勝を抜くのは難しいかもしれないという気がしている。タイガー本人も怪我にへこたれなかった若いころを思い出し、胸中で年はとりたくないものだ、と呟いているのではあるまいか。

三好 徹
1931年東京生まれ。読売新聞記者を経て作家に。直木賞、推理作家協会賞など受賞。社会派サスペンス、推理、歴史小説、ノンフィクション、評伝など、あらゆる分野で活躍。ゴルフ関連の翻訳本や著書も多い。日本の文壇でゴルフを最も長く愛し続けてきた作家。

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