連載コラム

三好徹-ゴルフ互苦楽ノート

ファン層の底上げを

2014/9/18 21:00

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日本のゴルフファンをこれから増やしていくために必要なことを考えてみると



 勝負を争う競技の中で、もっとも短時間で決する種目は、おそらく日本の相撲だろう。相手を土俵外へ押し出すか、土俵に倒すかすれば勝である。行司という名称のジャッジの声で立ってから、短いものは1秒で決してしまう。いや、1秒と書いたが、ストップウォッチで厳密に計測すれば、それより短い時間の場合もあるだろう。反対に、水入りの長い勝負になっても、合計時間が10分に達することは、おそらくないはずである。また、1回だけで決める競技法では本当の実力を決めきれないから、現在では15日間の成績によって優勝者を決める。同じ勝数なら決定戦が行われる。以前は13日、11日、10日だった。69連勝という不滅の大記録を樹立した双葉山の場合は、十両に昇進した場所(昭和7年1月)は3勝8敗だった。今なら幕下に落ちるが、当時は2場所の通算で決めるシステムだったので、次場所の7勝4敗によって、順位5枚目から6枚目に落ちただけですんだ。

 満15歳で角界入りした時の双葉山は、身長1.73メートル、体重71キロ。体格的には横綱を期待される力士ではなかった。また、関脇だった天竜を中心とする脱退事件で角界は揺れたが、双葉山は十両で一番も取らずに西前頭四枚目に昇進した。何しろ幕内11名十両3名だけが協会に残留したにすぎなかったのだ。

 プロ・スポーツにおいては、そういう運不運があるとしても、結局は実力である。ゴルフは、基本的に4日間72ホールのスコアによって成績が決められる。そして勝者の賞金は、国や試合によって違いはあるが、アメリカの通常の試合では100万ドル程度、日本では、日本オープンなどの大試合で4000万円。大相撲は、基本的に地位による月給で、その点はどうもプロスポーツらしからぬシステムである。男子ゴルフでは、かつて2億円を超える賞金王が出ているが、その数は多いわけではなかった。個人競技ではないが、野球やサッカーでは、日本でも1シーズン5億円の選手は何人も出たし、これがアメリカの大リーグになると、桁が違ってくる。また、プロスポーツにおける高額所得者でタイガー・ウッズが何回か最高になっていたが、1億ドル前後だったと記憶する。金銭の額によって選手としての価値ないし評価が決まるわけではないとしても、その道をめざす若者にとっては、高額である方がいいに決まっている。それによって才能のある者が集ってくるのも当然なのだ。

 プロスポーツの盛衰は基本的にファンが多いか少いかにかかっている。それに年齢やどういう仕事をしているかも関係する。わたしが小学生のころは、何といっても相撲が一番人気だった。もちろん双葉山の人気のせいである。競技種目が国際化するのに反対ではないが、横綱に日本人のいない状態が続くようではおもしろくない。観戦していてもさっぱり熱が入らない。感動もない。横綱に日本人力士の名が消えてから、いったい何年になるだろうか。

 ゴルフは歴史的にはイギリスの競技といっていいが、現状はアメリカにおいてもっとも盛んである。プレイヤーとしても、ウォルター・ヘイゲン、ジーン・サラゼン、アマチュアながら大きな影響力をもったボビイ・ジョーンズ、そのあともベン・ホーガン、サム・スニード、アーノルド・パーマー、ジャック・ニクラスらの歴史に残る名手が出た。現在だが、タイガー・ウッズも歴史に名を残すことは疑いない。従って、世界じゅうから選手が参加してくるPGAツアーで勝つことは、世界に通用することの証明になる。具体的にはどういうことかというと、メジャーでの勝利を含めて何勝かすることだと思う。丸山茂樹は3勝したが、アメリカの試合からは退いたし、あとは今田竜二と松山英樹がそれぞれ1勝である。若い松山には可能性があるとしても、メジャーに手が届くかどうか、それは誰にもわからない。ツアーで1勝するのも大変で、勝てないままツアーを去る人もいるのだ。

 力士は月給をもらっているから楽なようだが、勝てなければ番付も下がり、ついには引退となる。プロゴルファーは、50歳以上の人が出るシニアがあり、それより上の年齢の試合もある。あるいはアマチュア相手のレッスンで収入を得る方法もあることはある。むろん人間味によりけりで、現役時代の実績があっても威張る人にはアマチュアは寄ってこない。アメリカのプロゴルフ界は年金制度がしっかりしていて、丸山クラスは60歳を過ぎると、稼いだ時代に納めた年金基金で充分に暮せる金額が支給されるそうだが、日本ではまだそこまでの制度はできていない。

 実は、以上のようなことを書いたのは、囲碁棋士呉清源九段の百歳を祝う会に出て、勝負師の生涯をいろいろと考えさせられたからだった。オリンピックは参加することに意義がある、とされているが、勝負に人生をかけた人は、勝つことが第一なのである。わたしが呉九段の対局をこの目で見たのは記者時代のことで、もう半世紀も前のことである。碁とゴルフは似た面があって、それはハンデのつけ方が合理的にできていることである。わたしはアマの5段で、プロ棋士と五子の置き碁ならいい勝負ができるのだ。また「本因坊」戦のようなタイトルマッチでは対局場のホテルに設けられた解説会に500人くらいのファンがやってくる。入場料を取る場合もあるし、無料のときも少くない。いずれにせよ、それがファンの拡大に直結しているのだ。

 人気のマスターズも当初は入場券が売れなくて地元の人に頼んで買ってもらった。今ではヤミ市場で5000ドルといわれるが、初期に切符を買ってくれた人のリストがあって、今でもその人の子孫には優先的に出すという話を聞いたことがある。つまりファンを大切にすることが業界の振興につながるが、日本ではグリーンフィが高いままでは、第二第三の松山が出現する可能性は低いと思う。なぜならファン層の底上げにつながらないからである。

三好 徹
1931年東京生まれ。読売新聞記者を経て作家に。直木賞、推理作家協会賞など受賞。社会派サスペンス、推理、歴史小説、ノンフィクション、評伝など、あらゆる分野で活躍。ゴルフ関連の翻訳本や著書も多い。日本の文壇でゴルフを最も長く愛し続けてきた作家。

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